■「私」という連続性
むかし、養老孟子氏の講演会に行ったことがある。そこで彼は、脳というものは「同じ」という機能を持つと言った。
なぜ、お店で買い物が出来るのか。それは商品とお金(ただの紙切れ)が脳の中で「同じ」価値を持つからだ。
本来、同じでないものを「同じ」とみなすこと、それが脳の機能である。
例えば、昨日の私と今日の私が「同じ」と認識するのも脳の働きだ。
もちろん今日の私は、髪が少し伸びていたり、代謝によって構成成分が変わっているだろう。しかし、それを「同じ」と捉えるのが脳の働きというわけだ。
さらに言えば、「同じ」ということを維持しようとする力も働く、これは自己恒常性維持機能(ホメオスタシス)と呼ばれている。
この力によって、私たちは常に「同じ」私でいつづけることが出来るわけだ。
■「私」という弊害
しかし、その私にも終わりは来る。死である。私たちは死について自覚することは出来ない。死んだら意識は無いからである。
そこで私たちは、死そのものではなく、死という概念と対峙している。
私たちの命は限られており、その先には「私」の死というものがある。「私」という限りある連続性は、より巨大な「社会」とか「生命」の連続性に包含されていく。
その巨大な連続性に引き継がれていくものは思想だとか、知識だとか、命そのものであり、個としての「私」ではない。
そこで、生きているうちに「私」というものから何かを成したいと考えるのは自然な事である。「私」とその死というものが、限りある「私」が成すべきことを教えてくれるのだ。
だが一方で、「私」というものは怠惰を生み出す原因にもなる。例を2つほど挙げよう。
まず、死という実感が薄いことである。命に限りがあるといっても、ほとんどの人間は病気にでもならない限り自分が死ぬという実感は無い。そこで「私」の長い人生の中の1日ぐらいサボっても構わないと考える。「私」がサボろうが働こうが損するのも得するのも「私」であるから自己責任で一行に構わない。そう考えると、「私」は怠惰の温床になる。
もう1つは、「私」より「誰か」の方が圧倒的に多いということである。「私」がやらなくても、そのうち「誰か」がやってくれると考えれば、「私」が成す意味は無くなる。ここでも「私」は怠惰の温床になる。これは「一身独立して、一国独立す」と言った福澤諭吉先生の憂いた状況でもある。
■私は1人か?
このような「私」の弊害から脱出し、「私」の心の声を聞き、情熱を燃やし続けるにはどうすればよいだろうか。
それは、「私」をもっと限りあるものにすることである。
先の講演の中で、「私」というものが実は不連続であるという話があった。「私」というものは連続ではなく、毎日途切れているというのだ。なぜだか、お分かりになるだろうか?
笑い話のようだが、夜寝るからである。寝ているときは意識が失われ「私」というものはない。だから、「私」というものは毎日途切れている。途切れているにも関わらず、朝目覚めたときに今日の「私」は昨日と同じ「私」だと思って疑わない。起きたとたんに「私は誰だろう」という人がいたら、手間がかかってしょうがない。
しかしその当たり前であることを、よく考えて欲しい。今日の「私」は本当に昨日の「私」と同じ「私」だろうか?
昨日の「私」を今日の「私」と別の人だと考える。それが「私」をもっと限りのあるものにする方法である。
記憶があるじゃないかと言う人もいるだろうが、記憶も含め、生活品や何から何までを引き継いで、今日という日にあなたは「新しく」生まれてくるのだ。
「私」は色んなものを引き継いではいるが、今日の「私」に残された時間は今日という1日だけである。「私」の役割はその限られた時間を使って、その生活を「明日の私」に引き継ぐことだ。
今までの「私のため」という行為は、「私のため」と「明日の私のため」という2つの行為に分かれる。本当に「誰のため」でもない刹那的な「今日の私」の為の自己満足的な行為と、連綿と続く「私」という巨大な歴史を紡ぐための「明日の私のため」の行為である。
「私」の行為の中で、「明日の私」に受け継がれていくものは、「明日の私」にとって嬉しいことだけであり、そうでないものはその日のうちに消えていく。「今日の私」のために生きるか、「明日の私」のために生きるか、それはあなた次第である。
もし、あなたが何か目標を持っており、「明日の私」のために生きようとするなら、この考え方はあなたを大きくサポートする。
この考えに立ったとき、これからあなたをサポートするのは、あなたという「歴史」を織り成してきた「昨日の私」達の成果である。あなたは1人ではなく、1年で365人のあなたが誕生し消えていく、彼らは皆、あなたが今日生きるために生きてきたのである。そして、今日の私は、そう望めば、明日の私達のために生きることができる。
このように作られる「歴史」プロセスはまさに、「私」と「人類」のプロセスと同じである。「私」という連続性はより細かな「私」の連続性から生成され、「人類」という連続性もまたより細かな個人という連続性から生成される。
あなたの中に、その連続性の階層を持つことが、他の「誰か」ではなく今日の「私」に意味を持たせることになる。
■明日の私のために
あなたは、ついてない日や、うまくいかない日があれば「今日はついてない。明日頑張ろう」と言うかもしれない。しかし、人生の最後を迎えたそのときに、「今回の人生はついてなかった。また次の人生で頑張ろう」などとは決して言わないだろう。あなたの人生は終わり、次の人生はないからである。
「私」が分割され、1日限りの「私」になったとき、あなたは、それがどんな1日であったとしても納得せざるを得ないということに気がつくだろう。今日あなたが「明日の私」のために成したことはなんだろう。もちろん、悔いが残る場合もあるだろうし、大きな成果を残せることもあるだろう。しかし、それがどんな状況であっても、それは終わるのである。
だから、分割された「私」の1日の終わりは「私」だけの世界である。心の問題と言っても良い。良いか悪いかは心が生み出すものだからだ。
しかし、次の朝、分割された「私」が始まったとき、「昨日の私」が残したもの、それが「悔い」であれ「成果」であれ、あなたが受け取るのはその「結果」だけである。それが消え去るという意味なのだ。そして、さらに次の「明日の私」に何が残せるかが重要なのである。
もし、あなたが大きな事を成そうと思っているなら、「明日の私」にそれを引き継ぐことである。大きな事を1日で成すことはできない。たとえ1日で成されたように見えても、それは巨大な連続性の中で成されたことなのだ。
あなたが何かをするのは「私のため」ではなく「明日の私のため」である。さらに言えば、その先の「大きな事を成している私のため」である。そのための数多くの「私」たちのバトンリレーがあって初めて大きな事は成しえるのである。
そして、大きな事が成しえれば、それはおそらく人類の歴史にも引き継がれていくだろう。そこにいたるまでには、数え切れない人数の「私」とあなたの後援者が必要だ。そこには1日限りの「私」を全く越えたパワーが働いていることだろう。あなたは「明日の私」のために今を生きて、「今日の私」と共に消えていく。そして、次の日は別のあなたがその生活を受け継ぐのだ。それがあなたという歴史、人類という歴史を作っていくのである。
2011年10月9日日曜日
2011年9月21日水曜日
【ストーリー解析】コクリコ坂から
コクリコ坂を観てきた。ストーリー解析をしつつ、レビューをする。
以下はすべてネタバレなので、まだ観てない人は是非観てください。
コクリコ坂の基本情報はwikipediaで。→コクリコ坂
■声優情報
松崎海 - 長澤まさみ
風間俊 - 岡田准一
水沼史郎(生徒会長) - 風間俊介(ジャニーズJr.)
伊達男の生徒会長はジャニーズJr.。サブキャラクターだがキャラが立っていた。
■ストーリー解析
メインドライバーは
1.海と俊の恋が障害を越えて実る(L-F-L)
2.文化部部室塔「カルチェラタン」の取り壊しを阻止する(E-G)
の2つ。そこで主要人物はこれらの主体者、松崎海、風間俊、水沼史郎である。理事長もドライバー上は主要人物であるが、非常に脇役的扱いを受けている。
終始2つのドライバーが平行して進行し、中盤からは2でストーリーがドライブされていくが、視聴者としては、1が気になってしょうがないと言う感じ。掃除で盛り上がる中、寂しげな海の描写などもあり、2の中にあっても絶えず1のドライバーが強調されている。ドライバーの配分は非常にバランスが良いが、内容の点では1と2はほぼ分離している。
それは2のドライバーが原作には無く、映画で付け加えられたものということとも関係していると思われる。2は、1ほど視聴者の関心を引くものではないが、1の恋愛だけでは絵的にも内容的にも映画として成り立たないという判断があったのではないだろうか。それに2の部分が妙に駿っぽい気がするのは気のせいだろうか?2あっての映画「コクリコ坂から」と言えそうだ。
さらに1の障害として海と俊の兄妹疑惑があり、それの提示と解決がサブドライバーとして存在する。
3.海と俊の兄妹疑惑が解消される(E-G)
このドライバーでは、母松崎花、船長小野寺善雄などが脇役として登場する。Gドライバーの主体は難しいが、海と風間明雄(俊の父)であろうか。海と俊が2人でいるシーンは兄妹疑惑の渦中は兄妹に、それ以外は恋人同士に見えるから不思議である。
イベントを整理すると次のような構成になっている。
L 海と俊出会う
|
E ★「カルチェラタン」取り壊しの危機
|
L 海と俊仲良くなる
|
E 海と俊の兄妹疑惑
|
G ★「カルチェラタン」大掃除
|
F 海、兄妹疑惑にショックを受ける
|
G ★理事長に直談判
|
L 海告白
|
G 母によって出生の秘密の一部が解消される
|
G ★理事長視察「カルチェラタン」存続決定
|
G(L)出生の秘密明らかになり海と俊の障害消滅
|
ハッピーエンド
★マークは「カルチェラタン」サイドのイベント
マクロに見るとおよそ
L-E(F)-L-G(L) 海と俊の恋愛
E--G--G 「カルチェラタン」
という構成である。
■総評
海が、「実は俊とは兄妹である」という決定的な恋の破綻に晒されながらも、それを乗り越えていく姿がこの話の見所と言える。また、旗にこめられた父への想い、海の心のよりどころの母など、父母が非常に美しく描かれている。海の告白後は、憑き物が落ちるように2人は兄妹では無いことが判明し、理事長も全く話をこじらせることなく取り壊しは中止されるという、なんともラッキーなストーリー展開になる。感動するというよりは思わず良かったねと声をかけたくなる終わり方で、全く嫌味が無い。これを見て、真っ向から批判できる人は相当な変人だろう。
映画「コクリコ坂から」は日常を描きながらも、展開されるのは現代人には全くの非日常的世界であり、ゆらゆらとゆりかごの中に入れられた大人(視聴者)が、夢を夢と知らずに幸せそうにうたた寝をしている、そんな映画であった。
以下はすべてネタバレなので、まだ観てない人は是非観てください。
コクリコ坂の基本情報はwikipediaで。→コクリコ坂
■声優情報
松崎海 - 長澤まさみ
風間俊 - 岡田准一
水沼史郎(生徒会長) - 風間俊介(ジャニーズJr.)
伊達男の生徒会長はジャニーズJr.。サブキャラクターだがキャラが立っていた。
■ストーリー解析
メインドライバーは
1.海と俊の恋が障害を越えて実る(L-F-L)
2.文化部部室塔「カルチェラタン」の取り壊しを阻止する(E-G)
の2つ。そこで主要人物はこれらの主体者、松崎海、風間俊、水沼史郎である。理事長もドライバー上は主要人物であるが、非常に脇役的扱いを受けている。
終始2つのドライバーが平行して進行し、中盤からは2でストーリーがドライブされていくが、視聴者としては、1が気になってしょうがないと言う感じ。掃除で盛り上がる中、寂しげな海の描写などもあり、2の中にあっても絶えず1のドライバーが強調されている。ドライバーの配分は非常にバランスが良いが、内容の点では1と2はほぼ分離している。
それは2のドライバーが原作には無く、映画で付け加えられたものということとも関係していると思われる。2は、1ほど視聴者の関心を引くものではないが、1の恋愛だけでは絵的にも内容的にも映画として成り立たないという判断があったのではないだろうか。それに2の部分が妙に駿っぽい気がするのは気のせいだろうか?2あっての映画「コクリコ坂から」と言えそうだ。
さらに1の障害として海と俊の兄妹疑惑があり、それの提示と解決がサブドライバーとして存在する。
3.海と俊の兄妹疑惑が解消される(E-G)
このドライバーでは、母松崎花、船長小野寺善雄などが脇役として登場する。Gドライバーの主体は難しいが、海と風間明雄(俊の父)であろうか。海と俊が2人でいるシーンは兄妹疑惑の渦中は兄妹に、それ以外は恋人同士に見えるから不思議である。
イベントを整理すると次のような構成になっている。
L 海と俊出会う
|
E ★「カルチェラタン」取り壊しの危機
|
L 海と俊仲良くなる
|
E 海と俊の兄妹疑惑
|
G ★「カルチェラタン」大掃除
|
F 海、兄妹疑惑にショックを受ける
|
G ★理事長に直談判
|
L 海告白
|
G 母によって出生の秘密の一部が解消される
|
G ★理事長視察「カルチェラタン」存続決定
|
G(L)出生の秘密明らかになり海と俊の障害消滅
|
ハッピーエンド
★マークは「カルチェラタン」サイドのイベント
マクロに見るとおよそ
L-E(F)-L-G(L) 海と俊の恋愛
E--G--G 「カルチェラタン」
という構成である。
■総評
海が、「実は俊とは兄妹である」という決定的な恋の破綻に晒されながらも、それを乗り越えていく姿がこの話の見所と言える。また、旗にこめられた父への想い、海の心のよりどころの母など、父母が非常に美しく描かれている。海の告白後は、憑き物が落ちるように2人は兄妹では無いことが判明し、理事長も全く話をこじらせることなく取り壊しは中止されるという、なんともラッキーなストーリー展開になる。感動するというよりは思わず良かったねと声をかけたくなる終わり方で、全く嫌味が無い。これを見て、真っ向から批判できる人は相当な変人だろう。
映画「コクリコ坂から」は日常を描きながらも、展開されるのは現代人には全くの非日常的世界であり、ゆらゆらとゆりかごの中に入れられた大人(視聴者)が、夢を夢と知らずに幸せそうにうたた寝をしている、そんな映画であった。
2011年9月20日火曜日
【創作理論】ストーリー作品の作り方①

ここでは、ストーリー作品の創作法について解説する。
ストーリー作品とは、小説、映画、漫画など、ストーリーを伴う創作物のことである。
ストーリー作品を作るクリエイターの悩み事は、「着想はあるが、内容が具体的に決まらない」「何となくイメージはあるが、ストーリーが完成しない」といったものが多いのではないだろうか。ここでは、それらを解決する2つの方法論、
①着想を広げる方法論、イメージエンジン
②ストーリーの構造を決定する方法論、ドライバー理論
について解説する。イメージエンジンについては、ストーリー作品以外にも応用可能な部分があるので、ストーリー作品以外のクリエイターにも読んでいただきたい。
0.創作の手順
ストーリー作品の創作には主に次のような段階がある。
1. 着想(企画、タイトル、ジャンルなど)
2. シーン、設定、登場人物(イメージボード、アイデアなど)
3. 大まかなストーリー(あらすじ、プロットなど)
4. ストーリーと演出(脚本、ネーム、コンテなど)
5. 仕上げ
これらの段階を止まることなく、自由に闊歩することができれば、あなたの創作ペースは格段に上がるだろう。多作であるということはクリエイターのとっては強みであり、読者、視聴者にとっても望ましいことである。
1.イメージエンジン
まず、あなたには何らかの非常にわずかな着想があると仮定しよう。それは、タイトルでもいいし、コンセプトや、キャラクターでもいい。それは全くの思いつきや依頼であって、それをストーリー構築法の中では直観と意図(Intution & Intension)と呼んだ。
さて、この着想をどうやって拡張するかというのが、創作の初期段階における主要問題である。
脳内のネットワークで考えると、着想というのはネットワーク上の1点であり、我々の目的は、その脳内ネットワークの中から重要な組み合わせを選び出すことである。
これを、もし計算機にやらせるのであれば、それは近似解発見のアルゴリズムや、人工知能の問題になるだろうが、私たちが必要としているのはあくまで人間が思考する場合の方法論であり、計算機をうまく働かせる方法論ではない。
さらに、私たちが計算機と違うのは、私たちにはモチベーションが必要だということだ。ある人はその人自身が重要だと思うことしかやりたくないし、その行為自体が楽しくなければパフォーマンスは続かない。
そこで、私たちがある着想を拡張する際には、その拡張がその人自身にとって重要であり、臨場感のあるものである必要がある。
では、あなたにとって重要で、臨場感のあるものとは何だろうか。すなわちそれはあなたの情動記憶に基づくものである。
(情動記憶とは、何らかの情動と関連付けられた記憶のことである。我々の脳にはRASと呼ばれる情報のフィルター機能があり、そのフィルターは情動記憶によって調節されていると言われている。我々が重要だと感じるものと、情動記憶の関係は深い。また最新の認知科学によれば我々の認識は記憶によって成り立っており、豊かな記憶に基づくものほど、臨場感は高い)
イメージエンジンの方法論は、この情動に注目し、情動記憶のネットワークを使って、着想を拡張するものである。
では具体的に、その方法論について述べていこう。
まず、着想などあるイメージに対してあなたが感じる情動に注目しよう。
元になるものは、言葉でもいいし、絵でも、頭の中のイメージでも、アイデアでも構わない。拡張したい対象について、それを見たり、想起した時に感じる情動に注目する。感じる情動は、「かわいい」とか「つまらない」とか「ダサい」、「この部分が気に食わない」など何でも良い。情動ではないが、「何も感じない」というのでも構わない。
これらの情動はあなたの情動記憶を介し、あなたがイメージに対して無意識に想起させる情動である。(「何も感じない」であれば、あなたにとって重要ではないということだ)
このような、イメージに対してそれを見た人が感じる情動の列をエモーショナルライン(Emotional line)と呼ぶことにする。
エモーショナルラインは、そこに描かれているキャラクターがどう思っているかではなく、あるイメージを見た人がどう感じるかであり、あくまで作品世界の外側の観測者がどう感じるかというものである。エモーショナルラインは当然、見る人によって異なる。
着想を拡張するには、これらのイメージと情動について、「そのイメージがどう変われば、どう感じるか?」ということに注目する。そうすると、別のイメージと共に、それに付随する情動が現れる。
例えば、「ウェイトレスが水を持ってくる」シーンを考えよう。さて、このイメージについて何か感じるだろうか。ここでは「何も感じない」からスタートしてみよう。例えば、
「キンキンに冷えていたら」→「おいしそう!」
「ウェイトレスがごつかったら」→「お前女じゃねえだろ!」
「いきなり水をぶっ掛けられたら」→「びびる」
「すっころぶ」→「ぱ、パンツが・・・」
「注文した旦那がすごいかっこ良かったら」→「かっこいい!」
などの拡張が出来るだろう。ポイントは後半の情動である。作者のエモーショナルラインは「何も感じない」から実に様々なものに変わる。ここで情動が無ければ、拡張するモチベーションは生まれない。「ウェイトレスが水を持ってくる」シーンを見たときに、「水がオレンジジュースだったら」とか「ウェイトレスがウェイターだったら」とか「壁の色がベージュだったら」とか面白くも何ともないシチュエーションを想像する気になるだろうか?また、そのアイデアに実用性があるだろうか?
ここでは、シーンについて考えたが、イメージ自体はタイトルや主人公、作品世界の概念など何でもよい。
これが着想の拡張である。重要なのは、ある着想やイメージについて、出来るだけエモーショナルラインを意識し情動的に考えることである。
このように、情動を用いる利点は他にもある。強い情動を感じることは脳内にドーパミンを放出させる。(特にうれしい、楽しい、気持ちいいなど正の情動の方が多く出るとされている。)
創作におけるイメージの操作には高い抽象思考が必要であり、それを促すには前頭前野にドーパミンを流すことが重要である。ドーパミンは快楽物質であると同時に
思考を促す脳内物質でもあり、抽象思考することによっても分泌される。このようなドーパミンによるプライミングでさらに、前頭前野は活性化されイメージ操作がし易くなる。
このような、イメージ→情動→(情動記憶)→別のイメージ→別の情動(+ドーパミン)の循環を回すことによって創作におけるイメージをどんどん作り出すことをイメージエンジン(Image Engine)と呼ぶことにする。
拡張したい着想について、このイメージエンジンを使うことによって、作品世界についてのアイデア、シーン、設定、キャラクターが構築される。
着想が十分に拡張され、作品世界がある程度固まってきたら、次は大まかなストーリーを決定する工程へと移る。
[イメージエンジンの使い方まとめ]
①リラックスする。
②タイトルなどのキーワード、資料などからイメージを想起する
③そのイメージについて、自分が感じる情動に注目する
④そのイメージと情動について、それがどうなったらどう感じるかに注目する
⑤新たに得られたイメージについて③、④を繰り返す。
2.ビジョン
イメージエンジンによって着想を拡張していくと、いくつかの新しいイメージが得られ、次第に作品世界の構成要素が増えていく。
ある作品の構成要素には、大まかにシーン(scene)、設定(setting)、登場人物(character)などがある。これらをまとめてビジョン(Visions)と呼ぶことにしよう。
イメージエンジンを動かして得られるのは基本的に視覚的イメージであり、シーンとの結びつきが一番強い。イメージエンジンによってある程度のシーンが得られると、それに伴い設定や登場人物が決まってくる。
これらの構成要素が増えてくると次第に、構成要素に還元できない作品世界の全体イメージ(ゲシュタルト)が出来てくる。トーンと言っても良い。この全体イメージが出来上がったら、次の大まかなストーリーの決定に移る。だが、その前に少し補足をしておこう。
もともと、設定などは情動を伴いにくい。例えばある国の歴史、産業、キャラクターの住所や年齢をどうしても決めたい場合、それに情動を感じられるだろうか。
もし、このような情動を伴いにくいビジョンを拡張する必要がある場合には、それらを視覚イメージ化することが望ましい。それが提示されたときにどう感じるかに注目し、エモーショナルラインを形成する。かつて高い文明があった国とか、産業は綿織物とか言われても、普通は何も感じないだろう。
そこで例えば、どのような遺産や地形が残っているとどう感じるか(壮大だ!とか焼け野原だな…とか)、どのような生産現場だとどう感じるか(活気にあふれている!とかのどかだなあ…とか)、どんなところに住んでいるとどう感じるか(金持ちすぎる!とか貧乏だなあ(泣)とか)、何歳だと言われるとどう感じるか(若い!とか詐欺!とか)といった具合に情動を付加していく。
このように、設定に関しても視覚イメージ化することでイメージエンジンを使うことが容易になる。ただし、すべての構成要素がイメージエンジンによって構成されるわけではなく、辻褄合わせに発生する設定などもある。特に設定には辻褄合わせが多く含まれる。
【創作理論】ストーリー作品の作り方②につづく
【創作理論】ストーリー作品の作り方②
【創作理論】ストーリー作品の作り方①の続き。
大まかなストーリーを決定するドライバー理論について説明する。
-------------------------------------------
3.ドライバー理論
ある程度、ビジョンが形成され、作品の全体イメージが出来ていたら、大まかなストーリーを決定する。
ビジョンからストーリーを作るのが、創作中盤においての山場となる。
ストーリーに十分な構造を持たせる為には、全体像から各シーンが整合的に作られる必要がある。もし、ストーリーの全体像が分からなければ、各シーンの演出方針や、適当な描写の長さが決まらず、メリハリのあるストーリー、演出にはならないし、後半に生きてくる伏線を前半に入れることが出来ない。
ストーリーはビジョンに比べて、理性的なものであり、時間、空間、因果の整合性を持ち、さらに起承転結などの構造がなければ面白くない。
これらを整合的に作るための方法論が、ドライバー理論である。
簡単に言うとドライバーは、その話が「どんなストーリーなのか」を端的に表すものである。例えば、「アンパンマンがバイキンマンを倒す」とか、「神隠しにあった女の子が両親を救う」とかである。
補足---------------------------------------------
ドライバーとは、ビジョン(シーン、設定、登場人物)が持つストーリーを展開させる推進力を抽象化した概念である。このような推進力を持つ対象を、それがドライバーを持つ、あるいはドライバーであると言う。
ドライバーは次の5種類に分類され、
・悪(E,evil driver)と善(G,good driver)
・愛(夢)(L,love driver)と失敗(F,fail driver)
・提示(P,presentation driver)
それらの組み合わせによって主に
・悪が善によって倒される。または倒されようとする。(E-G)
・愛が受け入れられない。夢が叶わない。願望が失敗する。(L-F)
・愛が受け入れられる。または夢が叶う。愛または夢を発見する。(L)
・設定を説明する。(P)
といった話を展開する。
--------------------------------------------------
ドライバー理論についての詳細は、前記事ドライバー理論を見て欲しい。ここでは、その細部は説明せずに、本題に入ろうと思う。
あなたが、ある作品について、あるビジョンを持っているとき、あなたの想像力をさらに掻き立て、ストーリーを完結させるためには、分析とは別の特殊なストーリーを完結させうる構造、つまりドライバーを見つける必要がある。
あなたがもし、ストーリーを完結することが出来ないとすれば、それはドライバーが不明であるか、不満である可能性が高い。
創作において重要なことは、誰がドライバーで、そのドライバータイプが何であるかを分析することではなく、あなたが描くのに足りうると思うドライバーの中身は何でそれをつかさどる登場人物は誰かということだ。
そのようなドライバーを見つけるには、やはり、イメージエンジンを使う。
まずは、ビジョンの中から、今あるドライバーを探そう。分析的に、このストーリーは何の話なのか?を考える。
ここで、出てくるのは「分析的」つまり、固定概念や、よくあるパターンの中から選び出された、創造性の低い、つまらないものである可能性が高い。例えば「AがBを倒す」とか「AとBがくっつく」かもしれない。
次に、イメージエンジンの手順に従い、それに伴う情動に注目する。それは「腑に落ちない」とか「ありがち過ぎる」とか「つまらない」、あるいは「何も感じない」かもしれない。
そして、次に、それがどう変わったら、どう感じるかを想像する。目の前にあるドライバーが別のドライバーに変わったら、あなたはどう感じるだろうか。
これは、読者が持っている先入観に対して、別のストーリーを提示することにも対応する。意外な展開とは意外なドライバーの提示なのである。
さらに、新しく出てきたドライバーについて、それがどう変わったらどう感じるかを想像し、新たなドライバーを探す。このイメージエンジンのプロセスを通じて、我々は作るのに足りうるドライバーを発見する。
このようなプロセスを通して、作品には複数のドライバーが実装され多面的な側面が感じられるようになる。そのようなドライバーの中で中心に据えるのにふさわしいドライバーがそのストーリーの主要ドライバーである。
十分なドライバーを見つけるコツは、得られているドライバーに不満を持ち、ドライバーについて妥協しないことである。
このドライバーが出来た瞬間にストーリーはほぼ完成すると言っても良い。すべてのシーンについてどう持っていけばいいかが明確になるからである。
一般に知られている作品の製作プロセスは不明だが、推理ものや勧善懲悪ものを除けば、多くの作品でメインストーリーは予測しにくい意外なドライバーである。
例えば「トトロ」についての設定資料などを見ると、メイが行方不明になるというストーリー展開は後付けの可能性が高い。「トトロと仲良くなりました」では視聴者は拍子抜けしてしまうだろう。「トトロ」という必然性が無くとも「メイが行方不明になるがトトロが助けてくれて無事見つかる(E-G)」というドライバーが必要なのだ。
アニメ版の「時をかける少女」ではどうだろうか。主人公はタイムリープする能力を得てしまった少女だが、そのメインドライバーは「未来から来た少年とお別れする(L-F)」というものだ(それがきっかけでやることを見つけるのでLFLとも言える)。しかし、同時に「友人が電車事故に巻き込まれるのを阻止する(E-G)」や、「あの絵が見たいけど見れなかった(L-F)」、「好きな友達に告白したがスルーされる(L-F)」、「好きな先輩に思いを伝える(L)」などの別のドライバーも持つ。このように登場人物の様々なドライバーがストーリーを多面的で深いものにしている。きっと原作者はメインドライバーの切なさがメインに据えるのに足りうると判断したのだろう。
創作プロセスが分かっているので、依然書いた「マーメイ丼」を例に挙げると、初めのドライバーは「人魚の肉を食べようとする奴をマーメイ丼で倒す」であった。しかし、敵を倒すはありきたりだし、倒し方も腑に落ちない、感動も無い。そこで「マーメイ丼を通じて、家族の絆が強まり、お祭りも盛り上がる」というようなドライバーに変わった。しかし、これでも、まだ「マーメイ丼を通じて」の点がまったく不明である。そこで最終的には、メインドライバーは「マーメイ丼で友達を救う(E-G)」、サブドライバーは「王様がマーメイ丼を通じて昔のことを思い出す(L)」「マーメイドンでお祭りが盛り上がる(E-G)」というドライバーになった。敵となる王様達が単なる悪い奴ではなく、最後はみんなでお祭りというのが描くに足りうるドライバーになった理由だ。解析的にはE-L-G(L)-Gである。
注意すべきなのは、EGLFのドライバーの組み合わせにはオリジナリティの余地が無いと言うことだ。ドライバーを考える場合、それがどのドライバータイプに分類されるかではなく、「何が」ドライバーで、それをつかさどるキャラクターは誰なのかということだ。ドライバーの具体的部分に創造性は宿ることになる。
このような描くのに足りうると感じるドライバーが見つかれば、つぎは具体的にストーリーを書いて演出を決定していくことになる。この段階ではストーリーに関して悩むことは無いはずだ。もし、あるとすればドライバーを変更するかどうかだが、十分に満足のいくドライバーで始めたなら、どちらにせよいい結果になるだろう。
後は各媒体に応じた演出、仕上げが待っている。その技術は各媒体でかなり異なるが、ここでもやはりイメージエンジンを使っていけば、解決できるだろう。
オワリ
大まかなストーリーを決定するドライバー理論について説明する。
-------------------------------------------
3.ドライバー理論
ある程度、ビジョンが形成され、作品の全体イメージが出来ていたら、大まかなストーリーを決定する。
ビジョンからストーリーを作るのが、創作中盤においての山場となる。
ストーリーに十分な構造を持たせる為には、全体像から各シーンが整合的に作られる必要がある。もし、ストーリーの全体像が分からなければ、各シーンの演出方針や、適当な描写の長さが決まらず、メリハリのあるストーリー、演出にはならないし、後半に生きてくる伏線を前半に入れることが出来ない。
ストーリーはビジョンに比べて、理性的なものであり、時間、空間、因果の整合性を持ち、さらに起承転結などの構造がなければ面白くない。
これらを整合的に作るための方法論が、ドライバー理論である。
簡単に言うとドライバーは、その話が「どんなストーリーなのか」を端的に表すものである。例えば、「アンパンマンがバイキンマンを倒す」とか、「神隠しにあった女の子が両親を救う」とかである。
補足---------------------------------------------
ドライバーとは、ビジョン(シーン、設定、登場人物)が持つストーリーを展開させる推進力を抽象化した概念である。このような推進力を持つ対象を、それがドライバーを持つ、あるいはドライバーであると言う。
ドライバーは次の5種類に分類され、
・悪(E,evil driver)と善(G,good driver)
・愛(夢)(L,love driver)と失敗(F,fail driver)
・提示(P,presentation driver)
それらの組み合わせによって主に
・悪が善によって倒される。または倒されようとする。(E-G)
・愛が受け入れられない。夢が叶わない。願望が失敗する。(L-F)
・愛が受け入れられる。または夢が叶う。愛または夢を発見する。(L)
・設定を説明する。(P)
といった話を展開する。
--------------------------------------------------
ドライバー理論についての詳細は、前記事ドライバー理論を見て欲しい。ここでは、その細部は説明せずに、本題に入ろうと思う。
あなたが、ある作品について、あるビジョンを持っているとき、あなたの想像力をさらに掻き立て、ストーリーを完結させるためには、分析とは別の特殊なストーリーを完結させうる構造、つまりドライバーを見つける必要がある。
あなたがもし、ストーリーを完結することが出来ないとすれば、それはドライバーが不明であるか、不満である可能性が高い。
創作において重要なことは、誰がドライバーで、そのドライバータイプが何であるかを分析することではなく、あなたが描くのに足りうると思うドライバーの中身は何でそれをつかさどる登場人物は誰かということだ。
そのようなドライバーを見つけるには、やはり、イメージエンジンを使う。
まずは、ビジョンの中から、今あるドライバーを探そう。分析的に、このストーリーは何の話なのか?を考える。
ここで、出てくるのは「分析的」つまり、固定概念や、よくあるパターンの中から選び出された、創造性の低い、つまらないものである可能性が高い。例えば「AがBを倒す」とか「AとBがくっつく」かもしれない。
次に、イメージエンジンの手順に従い、それに伴う情動に注目する。それは「腑に落ちない」とか「ありがち過ぎる」とか「つまらない」、あるいは「何も感じない」かもしれない。
そして、次に、それがどう変わったら、どう感じるかを想像する。目の前にあるドライバーが別のドライバーに変わったら、あなたはどう感じるだろうか。
これは、読者が持っている先入観に対して、別のストーリーを提示することにも対応する。意外な展開とは意外なドライバーの提示なのである。
さらに、新しく出てきたドライバーについて、それがどう変わったらどう感じるかを想像し、新たなドライバーを探す。このイメージエンジンのプロセスを通じて、我々は作るのに足りうるドライバーを発見する。
このようなプロセスを通して、作品には複数のドライバーが実装され多面的な側面が感じられるようになる。そのようなドライバーの中で中心に据えるのにふさわしいドライバーがそのストーリーの主要ドライバーである。
十分なドライバーを見つけるコツは、得られているドライバーに不満を持ち、ドライバーについて妥協しないことである。
このドライバーが出来た瞬間にストーリーはほぼ完成すると言っても良い。すべてのシーンについてどう持っていけばいいかが明確になるからである。
一般に知られている作品の製作プロセスは不明だが、推理ものや勧善懲悪ものを除けば、多くの作品でメインストーリーは予測しにくい意外なドライバーである。
例えば「トトロ」についての設定資料などを見ると、メイが行方不明になるというストーリー展開は後付けの可能性が高い。「トトロと仲良くなりました」では視聴者は拍子抜けしてしまうだろう。「トトロ」という必然性が無くとも「メイが行方不明になるがトトロが助けてくれて無事見つかる(E-G)」というドライバーが必要なのだ。
アニメ版の「時をかける少女」ではどうだろうか。主人公はタイムリープする能力を得てしまった少女だが、そのメインドライバーは「未来から来た少年とお別れする(L-F)」というものだ(それがきっかけでやることを見つけるのでLFLとも言える)。しかし、同時に「友人が電車事故に巻き込まれるのを阻止する(E-G)」や、「あの絵が見たいけど見れなかった(L-F)」、「好きな友達に告白したがスルーされる(L-F)」、「好きな先輩に思いを伝える(L)」などの別のドライバーも持つ。このように登場人物の様々なドライバーがストーリーを多面的で深いものにしている。きっと原作者はメインドライバーの切なさがメインに据えるのに足りうると判断したのだろう。
創作プロセスが分かっているので、依然書いた「マーメイ丼」を例に挙げると、初めのドライバーは「人魚の肉を食べようとする奴をマーメイ丼で倒す」であった。しかし、敵を倒すはありきたりだし、倒し方も腑に落ちない、感動も無い。そこで「マーメイ丼を通じて、家族の絆が強まり、お祭りも盛り上がる」というようなドライバーに変わった。しかし、これでも、まだ「マーメイ丼を通じて」の点がまったく不明である。そこで最終的には、メインドライバーは「マーメイ丼で友達を救う(E-G)」、サブドライバーは「王様がマーメイ丼を通じて昔のことを思い出す(L)」「マーメイドンでお祭りが盛り上がる(E-G)」というドライバーになった。敵となる王様達が単なる悪い奴ではなく、最後はみんなでお祭りというのが描くに足りうるドライバーになった理由だ。解析的にはE-L-G(L)-Gである。
注意すべきなのは、EGLFのドライバーの組み合わせにはオリジナリティの余地が無いと言うことだ。ドライバーを考える場合、それがどのドライバータイプに分類されるかではなく、「何が」ドライバーで、それをつかさどるキャラクターは誰なのかということだ。ドライバーの具体的部分に創造性は宿ることになる。
このような描くのに足りうると感じるドライバーが見つかれば、つぎは具体的にストーリーを書いて演出を決定していくことになる。この段階ではストーリーに関して悩むことは無いはずだ。もし、あるとすればドライバーを変更するかどうかだが、十分に満足のいくドライバーで始めたなら、どちらにせよいい結果になるだろう。
後は各媒体に応じた演出、仕上げが待っている。その技術は各媒体でかなり異なるが、ここでもやはりイメージエンジンを使っていけば、解決できるだろう。
オワリ
2011年9月19日月曜日
【ストーリー解析入門】ドライバー理論
ここでは、ストーリーの構造解析に用いる概念、ドライバー(driver)の説明をする。
ドライバーの目的は、ストーリーグラフのようなストーリーにおける時空的構造ではなく、ストーリーの要約としての意味を分析することである。ゆえに、ドライバーは、そのストーリーが「どんなストーリー」で「登場人物の役割は何なのか」を明確にする。
1.ドライバーの定義と種類
定義:
ドライバーとは、ビジョン(シーン、設定、登場人物)が持つストーリーを展開させる推進力を抽象化した概念である。このような推進力を持つ対象を、それがドライバーを持つ、あるいはドライバーであると言うことにする。
ドライバーはストーリーの起点や終点を決定し、ストーリーの主要部分を構築するためストーリー構築においても非常に重要な概念である。ドライバーにはその性質から次の5つの種類がある。
悪(evil driver)と善(good driver)
愛または夢(love driver)と失敗(fail driver)
提示(presentation driver)
これらのドライバーの頭文字をとってそれぞれE,G,L,F,Pで表わす。ストーリーはこれらのドライバーの組み合わせによって構成される。(この章では分かりやすくするためにあえて、悪や愛といった語を単独で用いたが指示する内容を明確にするために英語で~driverと呼ぶことを推奨する。)
原理1:
ある1つのストーリーは5つのドライバー(悪、善、愛または夢、失敗、提示)の組み合わせに分類される。
次の節でこれらの性質を細かく説明する。
2. 悪(evil driver)と善(good driver)
悪、または悪ドライバー(E, evil driver)とは、調和を乱すこと、いけないこと、迷惑なこと、企み、解決すべき問題等である。Eは人間であるとは限らず、抽象的な何らかの問題、災害などの場合もある。これらは善なる存在によって打ち倒される(あるいは、打ち倒されようとする)。これを善、または善ドライバー(G, good driver)と呼ぶ。善という語を用いたが、Gは単にEを終わらせる存在であり、厳密にはそれが道徳的かどうかには関係が無い。
Gはその性質からE無しに存在することはできない。また、ストーリーは普通Eによって始められGによって終わる。つまり倒される。
Gが敗れるか、現れずEによってストーリーが終わるとき、それはバッドエンドとなる。
3. 愛または夢(love driver)と失敗(fail driver)
愛または夢、あるいは愛ドライバー(L, love driver)とは、愛または夢である。広義には、何かを願うことである。愛と夢のドライバーとしての性質は基本的に同じであり、それらを区別することにはあまり意味が無い。そのため2つは同じドライバーで表すことにする。愛または夢は成就、または失敗によって終わる。その失敗を導くのが失敗、または失敗ドライバー(F, fail driver)である。性質上、FはLなしには存在しない。また、愛または夢は、その発見によって終わるということも出来る。つまりLはドライバーとして単独で存在しうる。
普通、Lで終わることが望まれるという点で、LとFの関係は、EとGの関係とは異なる。
普通、物語はLで終わりハッピーエンドとなるが、Fで終わる場合もある。
特にギャグ作品ではFで終わる場合が多い。
4. 提示(presentation driver)
提示、または提示ドライバー(P, presentation driver)とは、作品の設定(setting)について説明するドライバーである。これは単独で存在し、読者(視聴者)の知らない設定ごとにストーリーに埋め込まれる。PにはG、L、Fのようにストーリーを直接終わらせる力は無く、エピローグという形で最後に挿入されることはあっても、それがストーリーの根幹を成すことは無い。
PはE-G、L-F、Lなどによって置き換えることが出来る。これはそれらのエピソードもまた設定を説明することが出来るからである。
主要ストーリーではない、部分的なE-G、L-F、LなどはPと読むことが出来る。つまりそれはそのE-G、L-F、Lを別のドライバーで置き換えてもストーリーを崩さないということを意味している。
5. ドライバーの性質による分類
5つのドライバーの性質をまとめると次のようになる。
性質による分類:
開始的ドライバー・・・E、L
完結的ドライバー・・・G、L、F
単独的ドライバー・・・P、L
ドライバーの組み合わせ:
E-G:悪が善によって倒される。または倒されようとする。
L-F:愛が受け入れられない。夢が叶わない。願望が失敗する。
L:愛が受け入れられる。または夢が叶う。愛または夢を発見する。
P:設定を説明する。
原理2:
ストーリーはEまたはLによって始まり、普通、EはGによって、LはLまたはFによって終わる。
6. 登場人物(character)の行動領域
ストーリーを展開する上で重要となる登場人物をドライバーを用いて次のように分類できる。(登場人物だけとは限らず、事象なども同様に分類できる。)
第1領域・・・GおよびLの主体者
第2領域・・・Lの対象者およびEの主体者
第3領域・・・上記以外の登場人物
一般にはある作品において、ある登場人物が恒久的に同じドライバーを持つとはいえない。ある登場人物の行動領域もドライバーに伴い変更される。
第1、第2領域の登場人物はストーリーを始める、または終わらせることが出来る。その点において主要登場人物(main character)であると言える。対して第3領域の登場人物は脇役(supporting character)である。第3領域の登場人物はドライバーを促す形でストーリーに登場する。
ウラジーミル・プロップの「昔話の形態学」の分類で言えば
第1領域・・・主人公
第2領域・・・王女(探し求められる者)、敵対者、偽主人公
第3領域・・・贈与者、助力者、王女の父、派遣者
にあたる。
原理3:
ストーリーの主要部分は主要人物のドライバーによって決定される。
7. ドライバーを用いたストーリー解析
ストーリーはドライバーを用いて簡潔に書くことが出来る。不要ならば脇役は省略しても構わない。
他にも時空と因果についての解析手段にストーリーグラフがある。
例1 桃太郎
ストーリーライン
P-P(E)-P-G
主要ドライバー:
桃太郎が鬼をこらしめる(E-G)
鬼は直接登場するわけではないが、打倒される存在として登場するP(E)。
例2 浦島太郎
ストーリーライン
P(EG)-L-F
主要ドライバー:
浦島が悪がきから亀を救う P(E-G)
(これは浦島が竜宮城へ行く理由を説明したものである)
浦島が望郷の思いから、帰郷するがそれは叶わない(L-F)
ドライバーの目的は、ストーリーグラフのようなストーリーにおける時空的構造ではなく、ストーリーの要約としての意味を分析することである。ゆえに、ドライバーは、そのストーリーが「どんなストーリー」で「登場人物の役割は何なのか」を明確にする。
1.ドライバーの定義と種類
定義:
ドライバーとは、ビジョン(シーン、設定、登場人物)が持つストーリーを展開させる推進力を抽象化した概念である。このような推進力を持つ対象を、それがドライバーを持つ、あるいはドライバーであると言うことにする。
ドライバーはストーリーの起点や終点を決定し、ストーリーの主要部分を構築するためストーリー構築においても非常に重要な概念である。ドライバーにはその性質から次の5つの種類がある。
悪(evil driver)と善(good driver)
愛または夢(love driver)と失敗(fail driver)
提示(presentation driver)
これらのドライバーの頭文字をとってそれぞれE,G,L,F,Pで表わす。ストーリーはこれらのドライバーの組み合わせによって構成される。(この章では分かりやすくするためにあえて、悪や愛といった語を単独で用いたが指示する内容を明確にするために英語で~driverと呼ぶことを推奨する。)
原理1:
ある1つのストーリーは5つのドライバー(悪、善、愛または夢、失敗、提示)の組み合わせに分類される。
次の節でこれらの性質を細かく説明する。
2. 悪(evil driver)と善(good driver)
悪、または悪ドライバー(E, evil driver)とは、調和を乱すこと、いけないこと、迷惑なこと、企み、解決すべき問題等である。Eは人間であるとは限らず、抽象的な何らかの問題、災害などの場合もある。これらは善なる存在によって打ち倒される(あるいは、打ち倒されようとする)。これを善、または善ドライバー(G, good driver)と呼ぶ。善という語を用いたが、Gは単にEを終わらせる存在であり、厳密にはそれが道徳的かどうかには関係が無い。
Gはその性質からE無しに存在することはできない。また、ストーリーは普通Eによって始められGによって終わる。つまり倒される。
Gが敗れるか、現れずEによってストーリーが終わるとき、それはバッドエンドとなる。
3. 愛または夢(love driver)と失敗(fail driver)
愛または夢、あるいは愛ドライバー(L, love driver)とは、愛または夢である。広義には、何かを願うことである。愛と夢のドライバーとしての性質は基本的に同じであり、それらを区別することにはあまり意味が無い。そのため2つは同じドライバーで表すことにする。愛または夢は成就、または失敗によって終わる。その失敗を導くのが失敗、または失敗ドライバー(F, fail driver)である。性質上、FはLなしには存在しない。また、愛または夢は、その発見によって終わるということも出来る。つまりLはドライバーとして単独で存在しうる。
普通、Lで終わることが望まれるという点で、LとFの関係は、EとGの関係とは異なる。
普通、物語はLで終わりハッピーエンドとなるが、Fで終わる場合もある。
特にギャグ作品ではFで終わる場合が多い。
4. 提示(presentation driver)
提示、または提示ドライバー(P, presentation driver)とは、作品の設定(setting)について説明するドライバーである。これは単独で存在し、読者(視聴者)の知らない設定ごとにストーリーに埋め込まれる。PにはG、L、Fのようにストーリーを直接終わらせる力は無く、エピローグという形で最後に挿入されることはあっても、それがストーリーの根幹を成すことは無い。
PはE-G、L-F、Lなどによって置き換えることが出来る。これはそれらのエピソードもまた設定を説明することが出来るからである。
主要ストーリーではない、部分的なE-G、L-F、LなどはPと読むことが出来る。つまりそれはそのE-G、L-F、Lを別のドライバーで置き換えてもストーリーを崩さないということを意味している。
5. ドライバーの性質による分類
5つのドライバーの性質をまとめると次のようになる。
性質による分類:
開始的ドライバー・・・E、L
完結的ドライバー・・・G、L、F
単独的ドライバー・・・P、L
ドライバーの組み合わせ:
E-G:悪が善によって倒される。または倒されようとする。
L-F:愛が受け入れられない。夢が叶わない。願望が失敗する。
L:愛が受け入れられる。または夢が叶う。愛または夢を発見する。
P:設定を説明する。
原理2:
ストーリーはEまたはLによって始まり、普通、EはGによって、LはLまたはFによって終わる。
6. 登場人物(character)の行動領域
ストーリーを展開する上で重要となる登場人物をドライバーを用いて次のように分類できる。(登場人物だけとは限らず、事象なども同様に分類できる。)
第1領域・・・GおよびLの主体者
第2領域・・・Lの対象者およびEの主体者
第3領域・・・上記以外の登場人物
一般にはある作品において、ある登場人物が恒久的に同じドライバーを持つとはいえない。ある登場人物の行動領域もドライバーに伴い変更される。
第1、第2領域の登場人物はストーリーを始める、または終わらせることが出来る。その点において主要登場人物(main character)であると言える。対して第3領域の登場人物は脇役(supporting character)である。第3領域の登場人物はドライバーを促す形でストーリーに登場する。
ウラジーミル・プロップの「昔話の形態学」の分類で言えば
第1領域・・・主人公
第2領域・・・王女(探し求められる者)、敵対者、偽主人公
第3領域・・・贈与者、助力者、王女の父、派遣者
にあたる。
原理3:
ストーリーの主要部分は主要人物のドライバーによって決定される。
7. ドライバーを用いたストーリー解析
ストーリーはドライバーを用いて簡潔に書くことが出来る。不要ならば脇役は省略しても構わない。
他にも時空と因果についての解析手段にストーリーグラフがある。
例1 桃太郎
ストーリーライン
P-P(E)-P-G
主要ドライバー:
桃太郎が鬼をこらしめる(E-G)
鬼は直接登場するわけではないが、打倒される存在として登場するP(E)。
例2 浦島太郎
ストーリーライン
P(EG)-L-F
主要ドライバー:
浦島が悪がきから亀を救う P(E-G)
(これは浦島が竜宮城へ行く理由を説明したものである)
浦島が望郷の思いから、帰郷するがそれは叶わない(L-F)
2011年9月9日金曜日
【マーメイ丼】あらすじ
新創作理論の実践第2段として製作。
今回はオリジナルの内容。
--------------------------
『マーメイ丼』
エメラルドブルーの海の底、キラキラと色鮮やかな魚達が泳いでいる。その魚達が突然さっと身を翻し、その群れを切り裂くように黒髪の人魚が猛スピードで突き抜ける。尾ひれはうねり、力強く水を掻くが、前方に現れた大きな網がその人魚を捕らえてしまう。
そこから少し離れた海の底、そんなことが起こっているとはつゆ知らず、別の人魚が袋片手に落ちているゴミを拾っている。頭には猫耳をつけており、髪は綺麗な金色だ。
「なんだ栗かと思ったらウニか。……この間食べたマロングラッセおいしかったなあ」
彼女の名前は山田カレン。この辺りの海の底、モクズ町に住む人魚3姉妹の末っ子である。
その様子を岩陰から怪しい男が覗いている。男は黒いダイビングスーツに身を包み、目つきは鋭い。
彼女がゴミ拾いを終え、日本家屋風の家に帰ってくると、居間では姉のイザベラがソファーで寝転がってテレビを見ていた。
「ちょっとお姉ちゃん、町内会のゴミ拾い行くんじゃなかったの」
「ごめんごめん、昨日飲みすぎちゃって……それよかさあ、カレンこれ見た?夏祭り中止だってさ」
イザベラはカレンに回覧板を差し出す。そこには夏祭り中止のビラが挟み込まれている。
「え、中止?なんで?」
「これが原因みたいよ?」
イザベラが指差すTVの中では、朝の情報番組が国王の容態悪化のニュースを取り上げてる。これを受けて全国では催し物の自粛ムードが広がっていた。
「えー楽しみにしてたのになあ」
「アタシも新しい浴衣着たかったのにい!」
突然、キッチンで朝食を作っていたもう1人の姉、おネエ系のカオルが顔を出す。正確には兄だ。お姉さんタイプのイザベラ、おネエさんタイプのカオル、アニメオタクのカレン、これが人魚の山田家3姉妹である。
「いただきまー……」
「みんな、大変やーっ!役人が来てえらいことになっとるでえ!」
カオルの作った朝食を食べようとした瞬間、町内会のタコ親父が顔を真っ赤にして飛び込んできた。
「……?」
広場に集まったモクズ町の住人の前に、偉そうな服を着た男と、ダイバースーツに身を包んだ男数人がいる。海面には軍艦が停泊しており、その錨のそばに鋼鉄製の檻があり、人魚が捕らわれている。それは、町長の孫娘でカレンの友人の黒髪の人魚リサであった。
「リサ!」
「カレン!」
「ええい、下がれ!」
偉そうな服を着た男が口調だけは丁寧にしゃべり始める。
「皆様、私はエンロハルバル家執事のオカーノでございます。国王様は今は病に伏せっておられるが、ご病気を患われる依然は大変な美食家で、今もその情熱は留まることがございません。単刀直入に申しあげると、国王様はある料理を探しておられる、その名は……」
聴衆がざわめく。
「マーメイ……なんとか」
「え?」
「正確な名前は分からんのだ。昔、国王がこの地で食した郷土料理だそうだ。その……、何か衝撃的で、感動的で、ちょっぴり切ない味だそうだ。」
「はあ?」「聞いたことある……?」「さあ……」
「おい、それよりリサをどうする気だ!」
「やかましい!我々も急を要しておるのだ!明日の夕刻までに『マーメイナントカ』なる郷土料理が見つからなければ、この娘にはその『マーメイナントカ』の実験台になってもらう」
「じ、実験台……?どうする気だ!」
「それはまだ考えてないが、その、なんだ、なんていうか……。ちょっとエッチな……感じとか?」
「ガーン」
「町長が倒れた!」
「リサ!そのマーメイ……なんとかを探し出して必ず助けてあげるからね!」
「マーメイ……なんとか」
「は、父上様なんと……?」
ここは海面の船の中、大きなベッドに力無く横になっているこの国の国王トースギルの横に王子カナタが寄り添っている。
「どのような食材を使った料理だったのか……、不思議と思い出せないが、その衝撃だけは覚えておる。ああ、懐かしい。あれが食べられればわしは……」
国王は、小さなため息をつくと船室の窓からたなびく雲を見やった。
「……親父はもう駄目かもしれん」
船室から出てきた王子は、ダイバースーツの大男、カナタの親友で軍部のモリータの前でそうつぶやいた。
「王子、人魚の肉は不老不死の力を授けるという話もあります。最悪、そのような手段も」
「そうだな……、海の民には嫌われたくないが……」
そんなわけで、モクズ町の面々は、それぞれその郷土料理を探すことになった。
「どうしようお姉ちゃん!」
「それぞれ散らばって探すしかないでしょ。ねえ」
「そうよ!今は全力を尽くすことだけ考えなくちゃ」
急にたくましくなる姉2人。カレンは友達が捕まっていることもあり、少し気が動転している。
「私どうしたら……」
「リサちゃんの側にいてあげてと言いたいところだけど、カレンはじっとしていられるタイプじゃないし……、そうね、おばあちゃんの所に行ってみれば?」
「でも、おばあちゃんってどこにいるか……」
「探せばいいじゃない。それぐらい出来るでしょ。それにカレンは私と違ってくじ運いいからさ」
「そ…そうかな」
「決まったわね!」
それぞれが勘を働かせて、山田家3姉妹はそれぞれ『マーメイ……なんとか』を探しに出発した。
カレンが向かったのは、モクズ町から少し離れた深海の海、太陽の光もあまり届かない暗い海である。カレン達の祖母ローレライは喧騒を離れ、深い海の底で隠遁生活を営んでいる。
色鮮やかな魚たちは次第に少なくなり、代わりに土色で不気味な容姿の生き物が増えていく。
「あー、何度来ても気持ち悪いなあ」
海の底に着いたカレンは水中ランプに灯をともす。周囲は静まり返り、貝が砂を吐く音やカニが歩く音が聞こえてきそうなぐらいである。
薄暗く見晴らしのきかない周囲に戦々恐々として泳いでいると、目の前に大きな穴が現れる。よく見ると、小さなトゲがついており、それは寝ている深海ザメの口だった。後ずさるカレンだが、ちらちらする光に目を覚ましたサメに襲われる。
追いかけられるうちに、ランプと猫耳を落として逃げ惑うカレン。たまたま、ランプがそのサメの鼻にかかり、猫耳も装着されてしまう。猫ザメの完成である。しかし、突如「ゴーン、ゴーン」という音が海中にこだまして、それを聞いたサメは何故かすごすごと去っていく。
それを呆然として見送るカレンの背後に、灯りを点した真っ黒く巨大なアンコウが現れる。びっくりして振り返るカレンだが、どこからか聞き覚えのある声が聞こえてくる。
「カレンか~い?お入り」
真っ黒く巨大なアンコウは、実は祖母ローレライが深海船に改造した動く家ハウリング号であった。
そのころ、姉イザベラは高級市場で情報収集を、おネエカオルは片目の巨大ザメと対決していた……。
「おばあちゃん何か知らない?結構昔のことらしいんだけど」
「マーメイ……なんとかねえ。」
「友達が捕まって、夏祭りも中止でえらいことになってるんだから!」
「夏祭りかい……、トンと行ってないねえ。アンタのお父さんが若い頃はそりゃあもう盛り上がってたもんだよ。お母さんとだってそこで知り合ったんだから」
「へえー、お父さんやるなあ」
「その頃はおばあちゃんだってピチピチだったんだから。ああ、そういえば夜店で何か作ってたわね」
そう言うと、ローレライは古ダンスをほじくり始めた。
「おじいちゃんが死んでからはひと夏の恋に燃えたものだわ」
ハウリング号の窓からは、部屋の明かりに照らされてちらちらとマリンスノーが見える。
「ありゃー何か色々と出てきたよ。困ったね、せっかく忘れてたのに。こりゃ見切れないよ」
タンスからは山田家の歴史が次々と発掘されていく、その中にカレンの父、山田助六の夏祭りメモが多数発見される。それには、今の夏祭りよりずっと規模の大きな当時の祭りの、出店の配置から、その出し物の情報が細かく書き込まれていた。そこでカレンは適当に山をほじくって眺めている。
「あ!おばあちゃん、これじゃない?」
カレンが見つけ出した出店のメモの束には何やらレシピのようなものが書かれている。その中に、『MERMAIDONの作り方』なるものがある。
「まーめいどん……、マーメイ丼!?」
「どれどれ?字が小さくて読めないねえ、メガネを……」
「ごめんおばあちゃん、急がないといけないの!すぐ行かなきゃ」
「ちょいと待ちな、それじゃイカの大ちゃんとこ行きな。大ちゃんなら大抵の材料は調達してくれるよ」
「うん、ありがとう!」
カレンは新しいランプをもらうと、レシピを持って一目散に深海の仕入れ屋、大王イカの大ちゃんのもとに行く。大ちゃんはローレライと幼なじみで、老舗の仕入れ屋の店主である。
「ほー懐かしいなあ、こら助六さんのメモやないかい。今年の夏祭りは豪勢やなあ」
「ごめんなさい。色々説明しなきゃいけないんだけど、時間が無いの。このレシピどおりに材料集められる?」
大ちゃんはレシピを眺めて、うーんと唸る。
「材料はそんなに問題あらへんけど、こらあタコうつくで?」
「それはきっと大丈夫、必ず払うからお願い!」
「ふーん。何かわけありやな。ローレライのばあさんとも友達やし、とりあえず倉庫から材料取ってくるさかい待っといて」
「ありがとう!」
次の日の夕刻、すでに広場では国王トースギルによる品評会が始まっている。
住民達は様々なマーメイドにちなんだ料理を作ってきたが、国王は手をつけるどころかほとんど見向きもしない。
「今までのところ、一番良かったのはイザベラさんのマーメイドの宝石箱弁当とカオルさんのマーメイドラゴンのフカヒレか……」
「父上様、どうですか何か思い出すものがありましたか」
「みな良くやってくれたが……、この中にはない。あの時の味はもっと強烈じゃった。残念じゃが、もう良い。わしの勘違いかもしれぬ」
「もう、料理を持って来た者はおらぬか!無ければ、これにて終了……」
「待ってください!ここにその料理があります!」
そこに、こんもり盛られたどんぶりを持ったカレンが現れる。
「料理の名は何という?」
「マーメイ丼です!」
ふたを開けると何やら黒々しいものが乗っかっている。とても料理とは思えない。群集にどよめきが起こる。
「あーあの子が料理全然出来ないの忘れてたわ……」
イザベラも頭を抱える。
「何と無礼な!そのようなゲテモノを国王様に召し上がっていただこうなどと。下げろ、下げろ!」
「そんな!」
その時、どんぶりから流れ出るわずかな匂いが国王の鼻に届く。
「うん?この匂いは……、これ持って来てみい」
「父上様、よろしいのですか?」
カレンは、執事オカーノにどんぶりの乗ったお盆を手渡し、オカーノはそれを国王の前に置く。
「不思議じゃ、見た目はひどいが、この香りは……どこかで」
国王は割り箸を割ってご飯とともに黒いものを口に運ぶ。群集は国王が初めて興味を示して食べる様子に息をのむ。
その間に、匂いが警護隊長のモリータの鼻にも届く。モリータは妙な顔をしたあと、あっという声を上げる。
それを聞くか聞かないかのタイミングで、国王がマーメイ丼をかみ締める。
「国王様!それを召し上がってはなりません!」
国王がその黒いものをかみ締めた瞬間、国王の顔は激しい閃光に包まれ、顔の穴という穴から爆風が噴き出し、衝撃波が群集を振るわせる。
「ドーーーーーーーーーーーーンッッッッッ!!!」
「な、な、何事だーっ!」
「その娘を捕らえろっ!」
警備兵がカレンを激しく拘束する。
「これは……火薬だ!この者の首をはねよ!」
「父上、父上は無事か!?」
「待ちなさい!」
煙の中から、髪の毛がもじゃもじゃになりススだらけになった国王が出てくる。テーブルは吹き飛んでいる。
「これじゃ……!」
「は?」
「いや、正確には完璧にこれというわけでないが、かなり近い……」
「あの?父上、おっしゃってる意味が……」
「その娘を放してやりなさい。これこそわしの求めていた味に近いものじゃ……」
王宮の面々と住民達は唖然として、爆発した国王の容姿を見つめている。
「しかし、もう一つ何か足りん。娘、これをどこで……」
「足りないのはアンタの頭だよ!」
突然、頭上に巨大なアンコウが現れる。ローレライのハウリング号である。
「おばあちゃん!?」
「あれから色々調べて思い出したよ!後はこれを見れば思い出すだろ。大ちゃんお願ーい」
ハウリング号からローレライが合図を送る。
「何だ、何だ?」
広場から少し離れた所から、小さな閃光が打ちあがり、夜空にぐんぐん上がっていく。王子は初めて見る光景に驚きの声をあげる。
「こ、これは花火というやつか……?」
「ドーーーーン!」
炸裂した花火は、七色の光を瞬かせながら散っていく。次々に打ち上げられる花火の閃光が、国王の潤んだ瞳に映っている。
「そうか、これじゃったのか……」
それから、すっかり元気を取り戻した国王を祝うため、夏祭りが開催された。丁度用意された大量の料理は夜店で販売されることになり、さらに、大ちゃんの用意した花火「マーメイドン」が次々と夜空に打ち上げられた。
そんな中、山田家の前では酒が入った面々がへべれけになっている。
「レシピは800発になっとったけど、1000発にまけといてやったわ」
「商売上手でんなあ」
「それで、おばあちゃん、真相はどうだったの?」
「あのトースギルってのが、付き合ってくれってしっつこくてさ。いい加減頭来たんで、花火を一発食わせてやったのさ。目を白黒させてたよ。」
「モリータさん、あんた意外といい男だわねえ。」
「う…」
「ねえ、おネエちゃん!かわいく着れてる?」
「ええ、カレンもリサちゃんもバッチリだわよ!」
「じゃ、夜店に行って来るね!行こ、リサちゃん!」
「うん!」
その年の夏祭りは花火や珍しい料理で例年に無く盛り上がり、国王の部下達も交えて飲めや歌えやの宴が夜遅くまで続いたという。もちろん数日後に、山田家には1000発分の花火の代金が請求されることになるのだが、そのことはまだ黙っておこう。
おわり
今回はオリジナルの内容。
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『マーメイ丼』
エメラルドブルーの海の底、キラキラと色鮮やかな魚達が泳いでいる。その魚達が突然さっと身を翻し、その群れを切り裂くように黒髪の人魚が猛スピードで突き抜ける。尾ひれはうねり、力強く水を掻くが、前方に現れた大きな網がその人魚を捕らえてしまう。
そこから少し離れた海の底、そんなことが起こっているとはつゆ知らず、別の人魚が袋片手に落ちているゴミを拾っている。頭には猫耳をつけており、髪は綺麗な金色だ。
「なんだ栗かと思ったらウニか。……この間食べたマロングラッセおいしかったなあ」
彼女の名前は山田カレン。この辺りの海の底、モクズ町に住む人魚3姉妹の末っ子である。
その様子を岩陰から怪しい男が覗いている。男は黒いダイビングスーツに身を包み、目つきは鋭い。
彼女がゴミ拾いを終え、日本家屋風の家に帰ってくると、居間では姉のイザベラがソファーで寝転がってテレビを見ていた。
「ちょっとお姉ちゃん、町内会のゴミ拾い行くんじゃなかったの」
「ごめんごめん、昨日飲みすぎちゃって……それよかさあ、カレンこれ見た?夏祭り中止だってさ」
イザベラはカレンに回覧板を差し出す。そこには夏祭り中止のビラが挟み込まれている。
「え、中止?なんで?」
「これが原因みたいよ?」
イザベラが指差すTVの中では、朝の情報番組が国王の容態悪化のニュースを取り上げてる。これを受けて全国では催し物の自粛ムードが広がっていた。
「えー楽しみにしてたのになあ」
「アタシも新しい浴衣着たかったのにい!」
突然、キッチンで朝食を作っていたもう1人の姉、おネエ系のカオルが顔を出す。正確には兄だ。お姉さんタイプのイザベラ、おネエさんタイプのカオル、アニメオタクのカレン、これが人魚の山田家3姉妹である。
「いただきまー……」
「みんな、大変やーっ!役人が来てえらいことになっとるでえ!」
カオルの作った朝食を食べようとした瞬間、町内会のタコ親父が顔を真っ赤にして飛び込んできた。
「……?」
広場に集まったモクズ町の住人の前に、偉そうな服を着た男と、ダイバースーツに身を包んだ男数人がいる。海面には軍艦が停泊しており、その錨のそばに鋼鉄製の檻があり、人魚が捕らわれている。それは、町長の孫娘でカレンの友人の黒髪の人魚リサであった。
「リサ!」
「カレン!」
「ええい、下がれ!」
偉そうな服を着た男が口調だけは丁寧にしゃべり始める。
「皆様、私はエンロハルバル家執事のオカーノでございます。国王様は今は病に伏せっておられるが、ご病気を患われる依然は大変な美食家で、今もその情熱は留まることがございません。単刀直入に申しあげると、国王様はある料理を探しておられる、その名は……」
聴衆がざわめく。
「マーメイ……なんとか」
「え?」
「正確な名前は分からんのだ。昔、国王がこの地で食した郷土料理だそうだ。その……、何か衝撃的で、感動的で、ちょっぴり切ない味だそうだ。」
「はあ?」「聞いたことある……?」「さあ……」
「おい、それよりリサをどうする気だ!」
「やかましい!我々も急を要しておるのだ!明日の夕刻までに『マーメイナントカ』なる郷土料理が見つからなければ、この娘にはその『マーメイナントカ』の実験台になってもらう」
「じ、実験台……?どうする気だ!」
「それはまだ考えてないが、その、なんだ、なんていうか……。ちょっとエッチな……感じとか?」
「ガーン」
「町長が倒れた!」
「リサ!そのマーメイ……なんとかを探し出して必ず助けてあげるからね!」
「マーメイ……なんとか」
「は、父上様なんと……?」
ここは海面の船の中、大きなベッドに力無く横になっているこの国の国王トースギルの横に王子カナタが寄り添っている。
「どのような食材を使った料理だったのか……、不思議と思い出せないが、その衝撃だけは覚えておる。ああ、懐かしい。あれが食べられればわしは……」
国王は、小さなため息をつくと船室の窓からたなびく雲を見やった。
「……親父はもう駄目かもしれん」
船室から出てきた王子は、ダイバースーツの大男、カナタの親友で軍部のモリータの前でそうつぶやいた。
「王子、人魚の肉は不老不死の力を授けるという話もあります。最悪、そのような手段も」
「そうだな……、海の民には嫌われたくないが……」
そんなわけで、モクズ町の面々は、それぞれその郷土料理を探すことになった。
「どうしようお姉ちゃん!」
「それぞれ散らばって探すしかないでしょ。ねえ」
「そうよ!今は全力を尽くすことだけ考えなくちゃ」
急にたくましくなる姉2人。カレンは友達が捕まっていることもあり、少し気が動転している。
「私どうしたら……」
「リサちゃんの側にいてあげてと言いたいところだけど、カレンはじっとしていられるタイプじゃないし……、そうね、おばあちゃんの所に行ってみれば?」
「でも、おばあちゃんってどこにいるか……」
「探せばいいじゃない。それぐらい出来るでしょ。それにカレンは私と違ってくじ運いいからさ」
「そ…そうかな」
「決まったわね!」
それぞれが勘を働かせて、山田家3姉妹はそれぞれ『マーメイ……なんとか』を探しに出発した。
カレンが向かったのは、モクズ町から少し離れた深海の海、太陽の光もあまり届かない暗い海である。カレン達の祖母ローレライは喧騒を離れ、深い海の底で隠遁生活を営んでいる。
色鮮やかな魚たちは次第に少なくなり、代わりに土色で不気味な容姿の生き物が増えていく。
「あー、何度来ても気持ち悪いなあ」
海の底に着いたカレンは水中ランプに灯をともす。周囲は静まり返り、貝が砂を吐く音やカニが歩く音が聞こえてきそうなぐらいである。
薄暗く見晴らしのきかない周囲に戦々恐々として泳いでいると、目の前に大きな穴が現れる。よく見ると、小さなトゲがついており、それは寝ている深海ザメの口だった。後ずさるカレンだが、ちらちらする光に目を覚ましたサメに襲われる。
追いかけられるうちに、ランプと猫耳を落として逃げ惑うカレン。たまたま、ランプがそのサメの鼻にかかり、猫耳も装着されてしまう。猫ザメの完成である。しかし、突如「ゴーン、ゴーン」という音が海中にこだまして、それを聞いたサメは何故かすごすごと去っていく。
それを呆然として見送るカレンの背後に、灯りを点した真っ黒く巨大なアンコウが現れる。びっくりして振り返るカレンだが、どこからか聞き覚えのある声が聞こえてくる。
「カレンか~い?お入り」
真っ黒く巨大なアンコウは、実は祖母ローレライが深海船に改造した動く家ハウリング号であった。
そのころ、姉イザベラは高級市場で情報収集を、おネエカオルは片目の巨大ザメと対決していた……。
「おばあちゃん何か知らない?結構昔のことらしいんだけど」
「マーメイ……なんとかねえ。」
「友達が捕まって、夏祭りも中止でえらいことになってるんだから!」
「夏祭りかい……、トンと行ってないねえ。アンタのお父さんが若い頃はそりゃあもう盛り上がってたもんだよ。お母さんとだってそこで知り合ったんだから」
「へえー、お父さんやるなあ」
「その頃はおばあちゃんだってピチピチだったんだから。ああ、そういえば夜店で何か作ってたわね」
そう言うと、ローレライは古ダンスをほじくり始めた。
「おじいちゃんが死んでからはひと夏の恋に燃えたものだわ」
ハウリング号の窓からは、部屋の明かりに照らされてちらちらとマリンスノーが見える。
「ありゃー何か色々と出てきたよ。困ったね、せっかく忘れてたのに。こりゃ見切れないよ」
タンスからは山田家の歴史が次々と発掘されていく、その中にカレンの父、山田助六の夏祭りメモが多数発見される。それには、今の夏祭りよりずっと規模の大きな当時の祭りの、出店の配置から、その出し物の情報が細かく書き込まれていた。そこでカレンは適当に山をほじくって眺めている。
「あ!おばあちゃん、これじゃない?」
カレンが見つけ出した出店のメモの束には何やらレシピのようなものが書かれている。その中に、『MERMAIDONの作り方』なるものがある。
「まーめいどん……、マーメイ丼!?」
「どれどれ?字が小さくて読めないねえ、メガネを……」
「ごめんおばあちゃん、急がないといけないの!すぐ行かなきゃ」
「ちょいと待ちな、それじゃイカの大ちゃんとこ行きな。大ちゃんなら大抵の材料は調達してくれるよ」
「うん、ありがとう!」
カレンは新しいランプをもらうと、レシピを持って一目散に深海の仕入れ屋、大王イカの大ちゃんのもとに行く。大ちゃんはローレライと幼なじみで、老舗の仕入れ屋の店主である。
「ほー懐かしいなあ、こら助六さんのメモやないかい。今年の夏祭りは豪勢やなあ」
「ごめんなさい。色々説明しなきゃいけないんだけど、時間が無いの。このレシピどおりに材料集められる?」
大ちゃんはレシピを眺めて、うーんと唸る。
「材料はそんなに問題あらへんけど、こらあタコうつくで?」
「それはきっと大丈夫、必ず払うからお願い!」
「ふーん。何かわけありやな。ローレライのばあさんとも友達やし、とりあえず倉庫から材料取ってくるさかい待っといて」
「ありがとう!」
次の日の夕刻、すでに広場では国王トースギルによる品評会が始まっている。
住民達は様々なマーメイドにちなんだ料理を作ってきたが、国王は手をつけるどころかほとんど見向きもしない。
「今までのところ、一番良かったのはイザベラさんのマーメイドの宝石箱弁当とカオルさんのマーメイドラゴンのフカヒレか……」
「父上様、どうですか何か思い出すものがありましたか」
「みな良くやってくれたが……、この中にはない。あの時の味はもっと強烈じゃった。残念じゃが、もう良い。わしの勘違いかもしれぬ」
「もう、料理を持って来た者はおらぬか!無ければ、これにて終了……」
「待ってください!ここにその料理があります!」
そこに、こんもり盛られたどんぶりを持ったカレンが現れる。
「料理の名は何という?」
「マーメイ丼です!」
ふたを開けると何やら黒々しいものが乗っかっている。とても料理とは思えない。群集にどよめきが起こる。
「あーあの子が料理全然出来ないの忘れてたわ……」
イザベラも頭を抱える。
「何と無礼な!そのようなゲテモノを国王様に召し上がっていただこうなどと。下げろ、下げろ!」
「そんな!」
その時、どんぶりから流れ出るわずかな匂いが国王の鼻に届く。
「うん?この匂いは……、これ持って来てみい」
「父上様、よろしいのですか?」
カレンは、執事オカーノにどんぶりの乗ったお盆を手渡し、オカーノはそれを国王の前に置く。
「不思議じゃ、見た目はひどいが、この香りは……どこかで」
国王は割り箸を割ってご飯とともに黒いものを口に運ぶ。群集は国王が初めて興味を示して食べる様子に息をのむ。
その間に、匂いが警護隊長のモリータの鼻にも届く。モリータは妙な顔をしたあと、あっという声を上げる。
それを聞くか聞かないかのタイミングで、国王がマーメイ丼をかみ締める。
「国王様!それを召し上がってはなりません!」
国王がその黒いものをかみ締めた瞬間、国王の顔は激しい閃光に包まれ、顔の穴という穴から爆風が噴き出し、衝撃波が群集を振るわせる。
「ドーーーーーーーーーーーーンッッッッッ!!!」
「な、な、何事だーっ!」
「その娘を捕らえろっ!」
警備兵がカレンを激しく拘束する。
「これは……火薬だ!この者の首をはねよ!」
「父上、父上は無事か!?」
「待ちなさい!」
煙の中から、髪の毛がもじゃもじゃになりススだらけになった国王が出てくる。テーブルは吹き飛んでいる。
「これじゃ……!」
「は?」
「いや、正確には完璧にこれというわけでないが、かなり近い……」
「あの?父上、おっしゃってる意味が……」
「その娘を放してやりなさい。これこそわしの求めていた味に近いものじゃ……」
王宮の面々と住民達は唖然として、爆発した国王の容姿を見つめている。
「しかし、もう一つ何か足りん。娘、これをどこで……」
「足りないのはアンタの頭だよ!」
突然、頭上に巨大なアンコウが現れる。ローレライのハウリング号である。
「おばあちゃん!?」
「あれから色々調べて思い出したよ!後はこれを見れば思い出すだろ。大ちゃんお願ーい」
ハウリング号からローレライが合図を送る。
「何だ、何だ?」
広場から少し離れた所から、小さな閃光が打ちあがり、夜空にぐんぐん上がっていく。王子は初めて見る光景に驚きの声をあげる。
「こ、これは花火というやつか……?」
「ドーーーーン!」
炸裂した花火は、七色の光を瞬かせながら散っていく。次々に打ち上げられる花火の閃光が、国王の潤んだ瞳に映っている。
「そうか、これじゃったのか……」
それから、すっかり元気を取り戻した国王を祝うため、夏祭りが開催された。丁度用意された大量の料理は夜店で販売されることになり、さらに、大ちゃんの用意した花火「マーメイドン」が次々と夜空に打ち上げられた。
そんな中、山田家の前では酒が入った面々がへべれけになっている。
「レシピは800発になっとったけど、1000発にまけといてやったわ」
「商売上手でんなあ」
「それで、おばあちゃん、真相はどうだったの?」
「あのトースギルってのが、付き合ってくれってしっつこくてさ。いい加減頭来たんで、花火を一発食わせてやったのさ。目を白黒させてたよ。」
「モリータさん、あんた意外といい男だわねえ。」
「う…」
「ねえ、おネエちゃん!かわいく着れてる?」
「ええ、カレンもリサちゃんもバッチリだわよ!」
「じゃ、夜店に行って来るね!行こ、リサちゃん!」
「うん!」
その年の夏祭りは花火や珍しい料理で例年に無く盛り上がり、国王の部下達も交えて飲めや歌えやの宴が夜遅くまで続いたという。もちろん数日後に、山田家には1000発分の花火の代金が請求されることになるのだが、そのことはまだ黙っておこう。
おわり
2011年8月28日日曜日
【酷・浦島太郎】あらすじ
ちょっと酷な浦島太郎のあらすじ。
新創作理論の実践の一環として製作。
----------------------------------
『酷・浦島太郎』
あるところに漁師の浦島太郎という男がいた。
ある日浦島が浜辺を歩いていると、村の若い衆が亀をいじめている。
亀は万年といい、たいそう長く生きるという。浦島はかわいそうに思い声をかけた。
「これ、亀をいじめてはいかん。亀とて同じ生き物ぞ」
これに腹を立てた若い衆は、持っていた棍で浦島をめった打ちにした。浦島はただ身を守るしかなかった。
若い衆はひとしきり暴れると、おとなしくなって去っていった。浦島はそろそろと起き上がり、亀は無事かと近くにいた亀を見やったが、すでに甲羅が砕けて死んでいた。
「可愛そうに。わしがやつらを怒らせねば、亀とて死なずに済んだやもしれぬ。すまんことをした」
浦島は亀を浜辺の松の根元に埋めてやった。
その夜、打たれた傷が痛んで寝付けない浦島の家の戸をたたく者がいる。半身を起こし「たれか」と聞くと「竜宮の使いなり」という。
妙なことだと思いつつ戸を開くと、そこに桃色の衣をまとった大層うるわしい娘が立っている。
「たいそう身分の高いお方とお見受けするが、夜分何の用か」
「わたしは竜宮の使いでございます。亀に墓を作っていただいた浦島という方を探しております」
「はあ、それは確かにわしのようじゃが」
浦島は戸惑ったが、娘は傷の具合を診たいという。娘は床に上がり、浦島の手当てをした。娘の持ってきた包帯は絹のようにやわらかく、塗り薬も塗ると痛みが和らいだ。そして、娘は浦島が眠りにつくまで、体を温めてくれた。
次の日、浦島が目を覚ますと娘はいなくなっていた。浦島は夢かと思い辺りを見回したがどうも様子がおかしい。そこは昨日までの家ではなく、見たこともないような上等な座敷であった。
おそるおそる戸を開けるとそこには巨大な水の庭があった。きらびやかに、四季の花が咲き誇っており、その中を鮮やかな魚が群れをなして泳いでいる。見上げると水はどこまでも続いているようだったが、昼間の庭園のように明るかった。そこに丁度、昨日の娘が粥を持って廊下を歩いてくる。
「まだ寝ておいでなければ、お体に障ります。粥をお持ちしましたのでお食べ下さい」
粥をよそいながら娘が言うには、高熱の上、中々目を覚まさぬゆえ、手当てのために竜宮城に連れてきたという。娘は、傷が治るまでしばらく城で養生して欲しいという。
それから、幾日か過ぎ浦島の傷はほとんど治ってしまった。浦島は大変感謝し、ある晩娘にいつまでも居候するのは申し訳ないのでそろそろ帰ろうかと思うと告げた。娘は少し戸惑った表情をしたが、「乙姫様に相談してみます」と言って了承した。
次の日、身支度を整えた浦島は乙姫に呼び出され初めて謁見することになった。
浦島が現れると、乙姫は真面目な面持ちで迎えた。
「そちが浦島か。傷はもう治ったか」
「はい、おかげさまですっかり治りました。このような豪華な宮で過ごしたのは初めてでございます、夢見ごこちというのはこのことで」
「ふむ、のん気なことじゃ。おい、あれらをここに」
乙姫が合図をすると、かしこまった屈強な家来どもが、なにやら物々しい様子で鎖に繋がれた3人の男を連れてきた。浦島はあっけにとられていたが、その男達の顔を見るや青ざめていった。
「浦島、この男どもを知っておるな?」
「はい……、知っております」
男達はやせこけ、足も立たず目に力も無かったが、その顔には覚えがあった。先日の村の若い衆だ。数日は何も食べていないようだった。
「わらわは人間が憎い。人間は丘に住むくせに、丘の上だけでは飽き足らず、海に住む生き物も殺し平気な面でのうのうと生きておる。
もちろん、わらわも道理が分からぬわけではない。人が生けるものを食わずして生きられぬのは分かる。しかし、このたび殺された亀はそうではない。この者達は単なる酔狂で、何の罪もない亀をむごたらしく殺したのじゃ」
乙姫は軽蔑に満ちた表情で若い衆に視線を投げかけた。その眼差しからは静かなる怒りがこみ上げているのが分かる。
「わらわは人が憎いが、戦をしたいわけではない。このような件にわらわが手を下していけば、丘の人間達も黙っておくまい。浦島、そちは亀の墓を作ってくれた。魚を取る漁師とはいえ、わらわはそちを責めるつもりはない。分かるな?」
新たに乙姫の家来が1人、浦島の元に近づいてくると、おもむろに浦島の前に布の包みを差し出した。
浦島は急に息苦しくなり、体の熱がどんどん奪われていくのが分かった。
包みが開かれると、その中には棍が入っていた。
「浦島、この件は人の間でケリをつけて欲しいのじゃ。そちの手でこの者たちを殺して欲しい」
浦島は、何か言おうと身震いさせたが声が出なかった。
「そちはこやつらに恨みが無いわけでもあるまい。傷の手当てが悪ければ死んでいたやもしれぬぞ」
家来達はそろそろと、頭を下げた浦島を取り囲むと刀に手をかける。
「分かってくれ浦島。これは仕方のないことじゃ。そちは悪くない。そちがやらぬなら、わらわはそちも殺さねばならぬ。わらわはそちを殺しとうないが、竜宮に人間を置いておけぬのは分かるな?」
浦島は頭が真っ白になった。結局浦島は、悩んだ挙句その晩衰弱した3人を殺した。
浦島が次に聞いた言葉は
「大義であった」
という乙姫のねぎらいの言葉だった。
その日、今まで見たこともない豪勢な食事が振舞われたが、ひとさじものどを通らず、夜は夢とも現とも分からぬ悪夢にうなされた。音が聞こえるのだ。暗闇の中で棍が頭を打つ音が。
次の日、乙姫は亀に浦島を送っていくよう命じた。浦島は言われるがまま、亀の背に乗り竜宮城を後にした。浦島は、まだ遠い故郷をおぼろげに思い出し涙を浮かべた。
「村のものに正直に話すべきだろうか」「話を分かってくれるだろうか」
疑問は次から次へと沸いては消えるが、それを考える力は無く、浦島は亀の背にうなだれ海底の藻屑を眺めていた。
浦島のいない間、村は騒ぎになっていた。ちょうど浦島の家に村人が集まっており、浦島は懐かしい顔ぶれに感激し涙を浮かべながら近づいた。しかし、村人が訝しそうにこちらを見た。
「あんた見かけない顔だけど、浦島の知り合いかい?」
浦島は、驚いて自分が浦島だと何度も説明したが村人はますます疑念を深めていくようだった。浦島は不思議に思いそばにあった溜桶で顔を映してみると、そこには昨日とは似ても似つかぬ、白髪でやつれたとても若者には見えない男が映っていた。
浦島は小さく悲鳴をあげ、慌ててその場を走り去った。
村人たちは、気がふれている老人がいると噂した。それを浦島と分かるものは1人もいなかった。
その日の夜、村人が寝静まった頃、一隻の船が沖へ出て行った。
それ以来、あの老人が浦島だったのではないかと噂になったが、次第にそれも忘れられ、
その後浦島の姿を見たり、その噂をするものはいなくなった。
おわり
新創作理論の実践の一環として製作。
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『酷・浦島太郎』
あるところに漁師の浦島太郎という男がいた。
ある日浦島が浜辺を歩いていると、村の若い衆が亀をいじめている。
亀は万年といい、たいそう長く生きるという。浦島はかわいそうに思い声をかけた。
「これ、亀をいじめてはいかん。亀とて同じ生き物ぞ」
これに腹を立てた若い衆は、持っていた棍で浦島をめった打ちにした。浦島はただ身を守るしかなかった。
若い衆はひとしきり暴れると、おとなしくなって去っていった。浦島はそろそろと起き上がり、亀は無事かと近くにいた亀を見やったが、すでに甲羅が砕けて死んでいた。
「可愛そうに。わしがやつらを怒らせねば、亀とて死なずに済んだやもしれぬ。すまんことをした」
浦島は亀を浜辺の松の根元に埋めてやった。
その夜、打たれた傷が痛んで寝付けない浦島の家の戸をたたく者がいる。半身を起こし「たれか」と聞くと「竜宮の使いなり」という。
妙なことだと思いつつ戸を開くと、そこに桃色の衣をまとった大層うるわしい娘が立っている。
「たいそう身分の高いお方とお見受けするが、夜分何の用か」
「わたしは竜宮の使いでございます。亀に墓を作っていただいた浦島という方を探しております」
「はあ、それは確かにわしのようじゃが」
浦島は戸惑ったが、娘は傷の具合を診たいという。娘は床に上がり、浦島の手当てをした。娘の持ってきた包帯は絹のようにやわらかく、塗り薬も塗ると痛みが和らいだ。そして、娘は浦島が眠りにつくまで、体を温めてくれた。
次の日、浦島が目を覚ますと娘はいなくなっていた。浦島は夢かと思い辺りを見回したがどうも様子がおかしい。そこは昨日までの家ではなく、見たこともないような上等な座敷であった。
おそるおそる戸を開けるとそこには巨大な水の庭があった。きらびやかに、四季の花が咲き誇っており、その中を鮮やかな魚が群れをなして泳いでいる。見上げると水はどこまでも続いているようだったが、昼間の庭園のように明るかった。そこに丁度、昨日の娘が粥を持って廊下を歩いてくる。
「まだ寝ておいでなければ、お体に障ります。粥をお持ちしましたのでお食べ下さい」
粥をよそいながら娘が言うには、高熱の上、中々目を覚まさぬゆえ、手当てのために竜宮城に連れてきたという。娘は、傷が治るまでしばらく城で養生して欲しいという。
それから、幾日か過ぎ浦島の傷はほとんど治ってしまった。浦島は大変感謝し、ある晩娘にいつまでも居候するのは申し訳ないのでそろそろ帰ろうかと思うと告げた。娘は少し戸惑った表情をしたが、「乙姫様に相談してみます」と言って了承した。
次の日、身支度を整えた浦島は乙姫に呼び出され初めて謁見することになった。
浦島が現れると、乙姫は真面目な面持ちで迎えた。
「そちが浦島か。傷はもう治ったか」
「はい、おかげさまですっかり治りました。このような豪華な宮で過ごしたのは初めてでございます、夢見ごこちというのはこのことで」
「ふむ、のん気なことじゃ。おい、あれらをここに」
乙姫が合図をすると、かしこまった屈強な家来どもが、なにやら物々しい様子で鎖に繋がれた3人の男を連れてきた。浦島はあっけにとられていたが、その男達の顔を見るや青ざめていった。
「浦島、この男どもを知っておるな?」
「はい……、知っております」
男達はやせこけ、足も立たず目に力も無かったが、その顔には覚えがあった。先日の村の若い衆だ。数日は何も食べていないようだった。
「わらわは人間が憎い。人間は丘に住むくせに、丘の上だけでは飽き足らず、海に住む生き物も殺し平気な面でのうのうと生きておる。
もちろん、わらわも道理が分からぬわけではない。人が生けるものを食わずして生きられぬのは分かる。しかし、このたび殺された亀はそうではない。この者達は単なる酔狂で、何の罪もない亀をむごたらしく殺したのじゃ」
乙姫は軽蔑に満ちた表情で若い衆に視線を投げかけた。その眼差しからは静かなる怒りがこみ上げているのが分かる。
「わらわは人が憎いが、戦をしたいわけではない。このような件にわらわが手を下していけば、丘の人間達も黙っておくまい。浦島、そちは亀の墓を作ってくれた。魚を取る漁師とはいえ、わらわはそちを責めるつもりはない。分かるな?」
新たに乙姫の家来が1人、浦島の元に近づいてくると、おもむろに浦島の前に布の包みを差し出した。
浦島は急に息苦しくなり、体の熱がどんどん奪われていくのが分かった。
包みが開かれると、その中には棍が入っていた。
「浦島、この件は人の間でケリをつけて欲しいのじゃ。そちの手でこの者たちを殺して欲しい」
浦島は、何か言おうと身震いさせたが声が出なかった。
「そちはこやつらに恨みが無いわけでもあるまい。傷の手当てが悪ければ死んでいたやもしれぬぞ」
家来達はそろそろと、頭を下げた浦島を取り囲むと刀に手をかける。
「分かってくれ浦島。これは仕方のないことじゃ。そちは悪くない。そちがやらぬなら、わらわはそちも殺さねばならぬ。わらわはそちを殺しとうないが、竜宮に人間を置いておけぬのは分かるな?」
浦島は頭が真っ白になった。結局浦島は、悩んだ挙句その晩衰弱した3人を殺した。
浦島が次に聞いた言葉は
「大義であった」
という乙姫のねぎらいの言葉だった。
その日、今まで見たこともない豪勢な食事が振舞われたが、ひとさじものどを通らず、夜は夢とも現とも分からぬ悪夢にうなされた。音が聞こえるのだ。暗闇の中で棍が頭を打つ音が。
次の日、乙姫は亀に浦島を送っていくよう命じた。浦島は言われるがまま、亀の背に乗り竜宮城を後にした。浦島は、まだ遠い故郷をおぼろげに思い出し涙を浮かべた。
「村のものに正直に話すべきだろうか」「話を分かってくれるだろうか」
疑問は次から次へと沸いては消えるが、それを考える力は無く、浦島は亀の背にうなだれ海底の藻屑を眺めていた。
浦島のいない間、村は騒ぎになっていた。ちょうど浦島の家に村人が集まっており、浦島は懐かしい顔ぶれに感激し涙を浮かべながら近づいた。しかし、村人が訝しそうにこちらを見た。
「あんた見かけない顔だけど、浦島の知り合いかい?」
浦島は、驚いて自分が浦島だと何度も説明したが村人はますます疑念を深めていくようだった。浦島は不思議に思いそばにあった溜桶で顔を映してみると、そこには昨日とは似ても似つかぬ、白髪でやつれたとても若者には見えない男が映っていた。
浦島は小さく悲鳴をあげ、慌ててその場を走り去った。
村人たちは、気がふれている老人がいると噂した。それを浦島と分かるものは1人もいなかった。
その日の夜、村人が寝静まった頃、一隻の船が沖へ出て行った。
それ以来、あの老人が浦島だったのではないかと噂になったが、次第にそれも忘れられ、
その後浦島の姿を見たり、その噂をするものはいなくなった。
おわり
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