2011年9月19日月曜日

【ストーリー解析入門】ドライバー理論

ここでは、ストーリーの構造解析に用いる概念、ドライバー(driver)の説明をする。

ドライバーの目的は、ストーリーグラフのようなストーリーにおける時空的構造ではなく、ストーリーの要約としての意味を分析することである。ゆえに、ドライバーは、そのストーリーが「どんなストーリー」で「登場人物の役割は何なのか」を明確にする。

1.ドライバーの定義と種類

定義:
ドライバーとは、ビジョン(シーン、設定、登場人物)が持つストーリーを展開させる推進力を抽象化した概念である。このような推進力を持つ対象を、それがドライバーを持つ、あるいはドライバーであると言うことにする。

ドライバーはストーリーの起点や終点を決定し、ストーリーの主要部分を構築するためストーリー構築においても非常に重要な概念である。ドライバーにはその性質から次の5つの種類がある。

悪(evil driver)と善(good driver)
愛または夢(love driver)と失敗(fail driver)
提示(presentation driver)

これらのドライバーの頭文字をとってそれぞれE,G,L,F,Pで表わす。ストーリーはこれらのドライバーの組み合わせによって構成される。(この章では分かりやすくするためにあえて、悪や愛といった語を単独で用いたが指示する内容を明確にするために英語で~driverと呼ぶことを推奨する。)

原理1:

ある1つのストーリーは5つのドライバー(悪、善、愛または夢、失敗、提示)の組み合わせに分類される。

次の節でこれらの性質を細かく説明する。

2. 悪(evil driver)と善(good driver)

悪、または悪ドライバー(E, evil driver)とは、調和を乱すこと、いけないこと、迷惑なこと、企み、解決すべき問題等である。Eは人間であるとは限らず、抽象的な何らかの問題、災害などの場合もある。これらは善なる存在によって打ち倒される(あるいは、打ち倒されようとする)。これを善、または善ドライバー(G, good driver)と呼ぶ。善という語を用いたが、Gは単にEを終わらせる存在であり、厳密にはそれが道徳的かどうかには関係が無い。

Gはその性質からE無しに存在することはできない。また、ストーリーは普通Eによって始められGによって終わる。つまり倒される。
Gが敗れるか、現れずEによってストーリーが終わるとき、それはバッドエンドとなる。

3. 愛または夢(love driver)と失敗(fail driver)

愛または夢、あるいは愛ドライバー(L, love driver)とは、愛または夢である。広義には、何かを願うことである。愛と夢のドライバーとしての性質は基本的に同じであり、それらを区別することにはあまり意味が無い。そのため2つは同じドライバーで表すことにする。愛または夢は成就、または失敗によって終わる。その失敗を導くのが失敗、または失敗ドライバー(F, fail driver)である。性質上、FはLなしには存在しない。また、愛または夢は、その発見によって終わるということも出来る。つまりLはドライバーとして単独で存在しうる。

普通、Lで終わることが望まれるという点で、LとFの関係は、EとGの関係とは異なる。
普通、物語はLで終わりハッピーエンドとなるが、Fで終わる場合もある。
特にギャグ作品ではFで終わる場合が多い。

4. 提示(presentation driver)

提示、または提示ドライバー(P, presentation driver)とは、作品の設定(setting)について説明するドライバーである。これは単独で存在し、読者(視聴者)の知らない設定ごとにストーリーに埋め込まれる。PにはG、L、Fのようにストーリーを直接終わらせる力は無く、エピローグという形で最後に挿入されることはあっても、それがストーリーの根幹を成すことは無い。

PはE-G、L-F、Lなどによって置き換えることが出来る。これはそれらのエピソードもまた設定を説明することが出来るからである。

主要ストーリーではない、部分的なE-G、L-F、LなどはPと読むことが出来る。つまりそれはそのE-G、L-F、Lを別のドライバーで置き換えてもストーリーを崩さないということを意味している。


5. ドライバーの性質による分類

5つのドライバーの性質をまとめると次のようになる。

性質による分類:

開始的ドライバー・・・E、L
完結的ドライバー・・・G、L、F
単独的ドライバー・・・P、L

ドライバーの組み合わせ:

E-G:悪が善によって倒される。または倒されようとする。
L-F:愛が受け入れられない。夢が叶わない。願望が失敗する。
L:愛が受け入れられる。または夢が叶う。愛または夢を発見する。
P:設定を説明する。

原理2:

ストーリーはEまたはLによって始まり、普通、EはGによって、LはLまたはFによって終わる。

6. 登場人物(character)の行動領域

ストーリーを展開する上で重要となる登場人物をドライバーを用いて次のように分類できる。(登場人物だけとは限らず、事象なども同様に分類できる。)

第1領域・・・GおよびLの主体者
第2領域・・・Lの対象者およびEの主体者
第3領域・・・上記以外の登場人物

一般にはある作品において、ある登場人物が恒久的に同じドライバーを持つとはいえない。ある登場人物の行動領域もドライバーに伴い変更される。

第1、第2領域の登場人物はストーリーを始める、または終わらせることが出来る。その点において主要登場人物(main character)であると言える。対して第3領域の登場人物は脇役(supporting character)である。第3領域の登場人物はドライバーを促す形でストーリーに登場する。

ウラジーミル・プロップの「昔話の形態学」の分類で言えば

第1領域・・・主人公
第2領域・・・王女(探し求められる者)、敵対者、偽主人公
第3領域・・・贈与者、助力者、王女の父、派遣者
にあたる。

原理3:

ストーリーの主要部分は主要人物のドライバーによって決定される。

7. ドライバーを用いたストーリー解析

ストーリーはドライバーを用いて簡潔に書くことが出来る。不要ならば脇役は省略しても構わない。
他にも時空と因果についての解析手段にストーリーグラフがある。

例1 桃太郎

ストーリーライン
P-P(E)-P-G

主要ドライバー:
桃太郎が鬼をこらしめる(E-G)
鬼は直接登場するわけではないが、打倒される存在として登場するP(E)。


例2 浦島太郎

ストーリーライン
P(EG)-L-F

主要ドライバー:
浦島が悪がきから亀を救う P(E-G)
(これは浦島が竜宮城へ行く理由を説明したものである)
浦島が望郷の思いから、帰郷するがそれは叶わない(L-F)