2012年7月22日日曜日

【ストーリー解析】「おおかみこどもの雪と雨」


2012/7/21に公開された映画「おおかみこどもの雪と雨」のストーリー解析をする。


*完全にネタバレなので、まだ見ていない人は見ましょう。



■基本情報

監督・原作 - 細田守
脚本 - 細田守、奥寺佐渡子
製作 - スタジオ地図/おおかみこどもの雨と雪製作委員会

細田守監督によるオリジナル長編アニメの第二作目。脚本は「時をかける少女」、
「サマーウォーズ」を手がけた奥寺佐渡子と細田守。おそらく、大まかなストーリーは原作者でもある細田が考えたのではないだろうか。

■声優情報

主に俳優、女優などを起用。

花 - 宮崎あおい
彼(おおかみおとこ)- 大沢たかお
雪 - 黒木華、大野百花(幼少期)
雨 - 西井幸人、加部亜門(幼少期)

突然、林原めぐみが出てきて気になってしょうがなかった人もいるかと。「ゲド戦記」に出た菅原文太も出演。

■あらすじ

主人公である花が「おおかみおとこ」との間に授かった2人の子供を懸命に育てる話。ストーリーは公式のあらすじでほとんど語られており、細田守はあまり隠す気がないらしい。一応のネタバレは、姉の雪は人間として、弟の雨は狼としての生活を選択すること。

形式としては雪のモノローグであり、映画の冒頭から要所要所で雪の「語り」が入る。この形式には、声の主が雪であると観客に気がつかせる一方で、「雨との別れ」を示唆する高度な狙いがある。雨がおぼれたシーンで「ひょっとして雨は死んでしまうのでは」と思った人も多いはず。

■ドライバー

メインドライバーは、

1.花が子供達の成長を見届ける(L-F-L)
2.雪が人間としての生き方を見つける(L=E-G)
3.雨が狼としてのの生き方を見つける(L=E-G)

の3つ。

サブドライバーとしては、

1.花とおおかみおとこの恋(L-L)
2.田舎ぐらしを近所の人に助けられる。(E-G)
3.山で滑落した花を、雨が助ける(E-G)

などがある。

全体の構成は次の通り。

L 花は大学の授業に潜っていた「彼」に恋をする。

L 花と彼の関係は次第に深まっていく。

E(L)彼は自分が「おおかみおとこ」であることを打ち明ける。

G(L)花はそれを受け入れる。

P 花と彼の間に長女「雪」が生まれる。

P 花と彼の間に長男「雨」が生まれる。

E 彼が不慮の死を遂げる。

L 花は二人の子供を育てようと決心する。

EG「おおかみこども」であることを隠しながらの生活に限界を感じ、田舎に越す。

E 収入が無く、野菜も上手く育たない。

G 近所の人の助けで、生活が軌道に乗る。

P 子供たちは成長し、小学校に通うようになる。

P 雪は、友達との交流から人間の女の子としての生き方を意識するようになる。

P 雨は、学校に溶け込めないでいる。

P(EG)雨は川で溺れそうになった事故を通じて、自然の世界に惹かれていく。

L 雨が森のキツネを先生と呼び慕うようになる。

E 雪が「おおかみ」であることを知られそうになる恐怖心から、転校生の草平に狼の姿で怪我を負わせてしまう。

G 花と雪が、草平の母に謝り、一応は解決する(伏線)。

EG 雪は学校を嫌がったが、草平が根気よく家を訪れ、雪はまた学校に通うように。

P 雪と雨が、おおかみか人間かをめぐって対立する。

P 大雨が襲来。森のキツネが死ぬ。

F(E)花は、雨が狼として歩み始めていることに戸惑いを感じる。
| |
P(E)雨は、先生の後を継ぐ決意をし、森へ。
| |
E(G)花は、雨を追って森に入るが、山で滑落し意識を失ってしまう。

P 一方で、学校に取り残された雪は草平と二人きりに。

P 草平は、親の問題を打ち明ける。

G(L)雪は、自分が「おおかみ」で草平に傷を負わせてしまったのが自分であることを打ち明ける。

L 草平は、その気持ちに応える。

G 雨は花を助ける。

F 雨は、森へと旅立つ。花はそれを止めようとする。

L 雨が旅立ち、咆哮。花は、その姿に子供の巣立ちを確信する。

P エピローグ

マクロに見ると全体の構成としては、4つの物語が展開されている。

①花と彼の出会い
花と彼は恋に落ちる。彼は不安がりながら「おおかみおとこ」であることを明かすが、花はそれを受け入れ、2人は「雪」と「雨」を授かる。(L-L-F-L)

②雪の成長譚
雪は初めは活発で狼らしく走り回っていたが、学校に行き始めてから人間の輪から外れてしまうことを恐れ始める。それがきっかけで、雪はささいなことから草平に狼の姿で怪我を負わせてしまう。しかし、草平はそれを理解し、雪がおおかみであるという秘密を隠し通して、雪を「おおかみ」であることの葛藤から解き放つ。
(L-E-G-F-L)

③雨の成長譚
雨は初めは引っ込み思案で甘えん坊だったが、川で溺れた事件(狩りの成功体験)をきっかけに、次第に自然への興味を深めていく。雨は、森のきつねを先生とよび慕う。しかし、大雨により先生が死に、その後を継ぐことを決意する。(P-L-E-G)

④花の子育ての物語
花はとにかく一生懸命子供たちを育てていく。しかし次第に、人間らしくしようとする雪と、野生に目覚めていく雨とのギャップに不安を感じ始める。おおかみでも人間でもどちらでも選べるようにと思っていたはずなのに、花には雨の生き方を受け入れる準備ができていなかった。初めは雨を引き止めようとする花だが、最後には狼として立派に成長した雨の姿を見て覚悟を決める。それは、花が「母」としての最後の成長を遂げた瞬間だった。
(L-F-E-G-L)

■演出

まず冒頭から度々登場する、実写にかなり近い作画に目を奪われる。特に背景などは実写とアニメの中間のようだ。多くのシーンでCGも使われている。舞台が自然豊かな田舎ということもあり、「トトロ」や「もののけ姫」などのジブリ作品と比較をしたくなる。怪しさや誇張という点から見ると最近のジブリよりもあっさりしており、「トトロ」のそれに近い。
題材が「おおかみこども」ということもあり、「崖の上のポニョ」や「平成狸合戦ぽんぽこ」にもつながる部分もある。

キャラクターなどの主線部については、走るシーンが多くよく動く。あと、多分、子育てをしている親にとっては「あるある」といったネタが多いのだろうと思う。

おそらくコンセプトは、「自然美」、「狼としてのリアリティ」、「リアルな子育て」といったところか。

■総評

この映画の対象年齢は、子供のいる30代とその子供かもしれない。親は泣いて、子供は狼を見て喜ぶのだろう。子供のときは分からないが、大人になって本当の意味が分かる映画になっているように思う。

映像美は、現代アニメの最高峰と言っても過言ではない出来栄え。とにかく背景と、動きがすごい。しかし、ストーリーには若干の問題がある。まずストーリーが長すぎる。ひとつひとつのエピソードが単発になっており、全体としての流れを欠いている。農作業、自然観察員、川で溺れるくだりなど、メインドライバーと関係の薄いエピソードは除くか、メインドライバーと絡ませる必要があっただろう。

あと男としては、雨にもっと活躍して欲しかった。

■いくつかの謎

設定について、微妙な点が結構ある。

①おおかみおとこの名前
なぜか彼(おおかみおとこ)には名前が無い。というより、おおかみおとこなのに設定がほとんど明らかにならない。

②おおかみおとこの死の謎
死なないと話が進まないのは分かるが、全くの謎というのもどうだろう。

③檻の狼の意味
檻の狼は伏線でも何でもない。

④無口な先生
先生がきつねってどうなの。しかも、全然しゃべらない。どうも知能はあるらしいが、設定が謎。

⑤雪を迎えに行かなくてもいいの?
雨のことを山に探しに行く花の行動に違和感。もう少し、どうしても追いかけなければならない演出が必要だったのかも。

⑥何も言わずに旅立つ雨
何か言っても良さそうなのだが、何も言わない。また、花とは何となく別れを交わしたが、雪とはさっぱり。

⑦雨は家近いんだしたまに帰ってきたらいいんじゃないの?
だよね。

⑧雨って結局なにしてんの?
山の自然観察員みたいなもん?

⑨戸籍とか??
多分なんとかなってるんだろう。

■ストーリー改善案

この作品のストーリーの問題点は、ひとつひとつのエピソードがばらけていることにある。一応、全体を貫くドライバーは、子育てと子離れ(L-F-L)ということになるのだが、だとすると野菜がうんぬんは長すぎた気がする。また、父親であるおおかみおとこのキャラが薄すぎて、役に立っていない。
そこで、

①花が雨と彼をダブらせる描写を入れる。
例えば序盤の変身シーンと、後半の雨の変身シーンをダブらせる。前半で彼に
花をおんぶさせておき、後半で雨が花をおんぶするシーンにつなげるなど、雨の成長を描く。

②花の言葉の中に、彼の言葉を入れる。
雨と父親の接点が無いので、花の言葉の中にそれを織り交ぜておく。視聴者には、それが雨に受け継がれていることが悟れるように。おまじないでも良い。
候補は「だいじょうぶ、だいじょうぶ」とか。彼の口癖にしておけばいい。

③雪が怪我をさせたとき、それを雨がかばう。
しかし、それが原因で雪と雨の溝は深まり、雨は学校から距離を置く。

④溺れたとき助けてくれるのは「先生」
その方が、雨が森に惹かれるきっかけになる。

⑤雨が雪を追い越す描写を入れる。
ケンカがただのケンカになっているので、その後に雨が雪を助ける描写を入れる。雨には「母さんを頼む」ぐらいは言って欲しかった。

つまり、後半のドライバーは「急成長する雨」を主軸に置く。


これらを踏まえると、次のようになる。

(前半は同じ)

P 子供たちは成長し、小学校に通うようになる。

P 雪は、友達との交流から人間の女の子としての生き方を意識するようになる。

P 雪は雨を学校に誘う。

E 雪が「おおかみ」であることを知られそうになる恐怖心から、転校生の草平に狼の姿で怪我を負わせてしまう。

P それを雨がかばう。

G 花と雨が、草平の母に謝り、一応は解決する(伏線)。

P 雪は花に本当のことを話す。でも、草平には本当のことを言えないでいる。

EG雪は学校を嫌がったが、草平が今期よく家を訪れ、雪はまた学校に通うように。

P 溺れた事件をきっかけに、雨が森のキツネを先生と呼び慕うようになる。
花は事件と彼の死を重ね合わせて、大切なものを失うことに恐怖する。

P 雪と雨のケンカ。

F(E)花は、雨が狼として歩み始めていることに戸惑いを感じる。

P 大雨が襲来。森のキツネが死ぬ。

P(E)雨は、先生の後を継ぐ決意をし、森へ。

E(G)花は、雨を追って森に入るが、山で滑落し意識を失ってしまう。

P 一方で、学校に取り残された雪は草平と二人きりに。

G(L)雪は、自分が「おおかみ」で草平に傷を負わせてしまったのが自分であることを打ち明ける。

L 草平は、その気持ちに応える。

P 雪は異変に気がつき、山に花を探しに。

G 雨は花を助ける。花は彼とのをだぶらせ、雨の成長を感じ取る。

P そこに雪が駆けつける。

F 雨は、森へと旅立とうとする。花はそれを止めようとする。

L 雨は、雪に花を託して旅立ち、咆哮。花は、その姿に雨の巣立ちを確信する。

P エピローグ

これで、ドライバーの関連性が確保され、ストーリーの強度が増した気がする。