2012年12月11日火曜日
【ストーリー解析】ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q
2012/11/17に公開された映画「ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q」のストーリー解析。
*もちろん完全にネタバレなので、まだ見ていない人は見ましょう。
■基本情報
企画・原作・脚本・総監督:庵野秀明
非常に大規模なので、詳細はwikipediaにゆずる。
- http://ja.wikipedia.org/wiki/ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q
同時上映 特撮映画「巨神兵東京に現わる」
■声優情報
基本メンバーはいつもの通り。同じメンバーでやれるのはいいこと。
碇シンジ:緒方恵美
渚カヲル:石田彰
アヤナミレイ(仮称):林原めぐみ
式波・アスカ・ラングレー:宮村優子
真希波・マリ・イラストリアス:坂本真綾
葛城ミサト:三石琴乃
碇ゲンドウ:立木文彦
個人的には、鈴原トウジの妹役で沢城みゆきが出ていてテンションが上がった。
あと、大塚明夫も出てる。
林原めぐみは同時上映の「巨神兵東京に現わる」のナレーションも担当。
緊張感のあるいい演技だった。
でも、巨神兵がビームを出すところで「ドラグスレイブ!」と叫びそうになった。
■あらすじ
wikipediaの記事がよくまとまっているので、そちらを参照。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%B1%E3%83%B4%E3%82%A1%E3%83%B3%E3%82%B2%E3%83%AA%E3%83%B2%E3%83%B3%E6%96%B0%E5%8A%87%E5%A0%B4%E7%89%88:Q#.E3.82.B9.E3.83.88.E3.83.BC.E3.83.AA.E3.83.BC
■ドライバー
まず、メインドライバーは以下の4つ。
L-F:碇シンジが、元ネルフメンバーに拒否される。
L-L:打ちひしがれたシンジが、カヲル君に優しくされてやる気を取り戻す。
L-F:元気が出たシンジはエヴァに乗って再び世界を取り戻そうとするが失敗する。カヲル君も死ぬ。
E-G:フォースインパクトが引き起こされそうになるが、カヲルが阻止する。
一方、サブドライバーにあたるものは、次のようなものがある。
E-G:葛城ミサトら、反ネルフ組織「ヴィレ」のメンバーが初号機および碇シンジの奪取に成功する。
E-G:「ヴィレ」の艦艇「AAA ヴンダー」が、なんかよく分からん使徒っぽいものを撃破。
P:14年後の未来の設定の紹介。(ニアサードインパクトのこと、シンジの母のこと、レイのことなど。)
L-F:シンジは綾波を助けたものだと思っていたが、実は助けられてなかったようだと判明した。
また次回への伏線として、次のようなサブドライバーもある。
E:碇ゲンドウは何かを画策している。
L:アスカはシンジを気にかけている?
P:アヤナミレイ(仮称)は自我に目覚めようとしている?
ストーリーの具体的展開は次の通り。
E ヴィレの率いるエヴァ2号機(アスカ)、エヴァ8号機(マリ)が、使徒っぽいものを撃破。*1)
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G 初号機および碇シンジの奪取に成功する。
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P 碇シンジは目覚めて安堵するが、どうも周りの様子がおかしい。
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E ヴィレの一団が、使徒っぽいものに襲われる。*2)
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LF シンジはエヴァに乗って戦おうとするが、葛城ミサト、赤木リツコらに冷たく拒否される。
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G エヴァ初号機を用いた、ヴィレの新型艦艇「AAA ヴンダー」の活躍により、使徒っぽいものを撃破。
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P シンジは、今が14年後であることや、助けたはずの綾波レイが見つからなかったこと、エヴァに乗ったら死ぬ首輪を装着されていることを知る。*3)
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E(シンジから見ればL)ネルフのエヴァMark.09(搭乗者:綾波レイ)がヴンダーを襲撃し、シンジを連れ戻しにくる。*4)
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P ネルフに戻ったシンジは、碇ゲンドウにエヴァに乗れと言われる。また、同時に同乗パイロットである渚カヲルと出会う。
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F シンジは、綾波レイ(実は別のクローン)に心の拠り所を求めるが、当然あまり相手にされない。
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L ネルフでの空虚さの中でカヲル君のピアノに惹かれはじめる。
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L カヲル君はとっても優しくて、一緒にピアノの練習とかして仲良くなる。
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P(E) シンジはカヲル君に連れられてニアサードインパクトの現場に行き、シンジが初号機を覚醒させたことが原因で、第3新東京市が壊滅したことを知る。
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P(F) 冬月がシンジに、綾波レイが母ユイのクローンであることを話す。シンジは、自分の知る綾波を助けられなかったことを知る。
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L 自暴自棄になっているシンジの元に最後の拠り所であるカヲル君が来て、第13号機がロンギヌスの槍とカシウスの槍を手にすれば世界をやり直せると説得する。
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L はじめは拒むシンジだったが、カヲルがシンジの首輪を自身に移すと、その優しさに打たれてエヴァに乗ることを決める。
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L エヴァ13号機に乗り込んだシンジとカオル、護衛のMark.09(アヤナミレイ)は、セントラルドグマ最深部へ辿りつく。
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E しかし、そこには2種類の槍ではなく、2本のロンギヌスがありカヲルは困惑する。
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EG そこにアスカの改2号機とマリの8号機が登場し、妨害工作を仕掛けるがシンジはそれを退ける。
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L シンジは、不安を抱くカヲルの制止を振り切り、2本の槍を引き抜く。
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F(E) しかし、不安は的中しエヴァは覚醒し上空へと浮上を始める。これはカヲルをトリガーとした「フォースインパクト」の始まりだった。
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G(E) 上空にいたヴンダーは、それを阻止すべく13号機に攻撃を仕掛けるが、Mark.09の妨害により失敗する。
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P(G) 改2号機がMark.09の迎撃に当たるが、結局共倒れになり双方ともエントリープラグで脱出する。
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G カヲルは自身がフォースインパクトを止めると言い、二本の槍で13号機自身を貫く。
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F それと同時に、首輪が発動しカヲルは絶命する。シンジは激しくショックを受ける。
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G さらにマリにより、シンジのエントリープラグが強制射出され、フォースインパクトが未遂に終わる。
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P(L)先に射出されていたアスカが、すねていたシンジをエントリープラグから引きずりだし、救出可能圏内まで歩き始める。また、それにアヤナミレイも加わる。
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(最終作につづく)
注釈)
*1) 正確には、初号機はネルフにより衛星軌道上に封印されており、使徒っぽいものの正体は、自動防衛システム「コード4-A」および、「コード4-B」という設定らしいのだが、視聴者はそこまで分からない。
*2) ネーメシスシリーズというらしいが、何なのかはよく分からない。
*3) この時点ではよく分からないが、後にエヴァを覚醒させる(インパクトのトリガーとなる)と発動する仕組みであることが理解される。名前はDSSチョーカー。
*4) この時点では、シンジは前作で助けた綾波が来たのだと思っている。
■マクロストーリー
マクロに見ると今作の最大のストーリー構造は、
①シンジの絶望、希望、そしてまた絶望
と見ることができる。
まず、ストーリーの前半では、シンジが旧ネルフ関係者から徹底的に拒否される。(信頼していた葛城ミサト、赤木リツコ、アスカ、成長して再登場したトウジの妹など。)そこで、シンジの心の拠り所は、前作で助けた(と思っている)綾波へと向かうが、その助けようとした行為が悲惨なニアサードインパクトを引き起こしたこと、しかも、助けたはずの綾波すら助かっていないことなどを突きつけられ、それもまた絶望に変わる。そこに救済の使者として、カヲルという存在が出て来るのだが、結局フォースインパクトの開始、カヲルの死という最悪の結果に終わる。
細かく言えば、絶望→希望→絶望→希望→絶望となんともブンブン振り回されている。最後のアスカの助けを希望と捉えると、最後に少しだけ希望が見えたということになるのかもしれない。
ともかく、戦闘シーン以外では、時間のほとんどがシンジの心理描写に割かれており、映画館のポスターがシンジとカヲルというのもうなづける。
また、もう一つの重要な構造は
②とにかくフォースインパクト事件を起こす必要がある
ということだ。本作を見て、
1.旧ネルフ職員達はそこまでシンジを拒否するだろうか?もっと同情的なのでは?
2.カヲル君に説得されてエヴァに乗ったのに、カヲル君の言うことを聞かずに槍を抜くだろうか?
という疑問がわいた人も多いと思う。前作ラストでミサトさんは、綾波を助けようとするシンジに「行きなさい、あなた自身の願いの為に!」みたいなこと言っていたし、サードインパクトを起こしたからって冷たすぎる。カヲル君にしても、シンジにとってカヲル君は自分を導いてくれた存在であって、どちらかというと従属的であったはずだ。
このようなストーリーとキャラクターの不一致は、今作のストーリーの中でフォースインパクトが強力な「規定事項」であることを強く示唆している。要するに、キャラクターの整合性を犠牲にしても、達成しなければならない展開だということだ。(もちろん、うまいシナリオライターなら両者を一致させるのだが。)
この点から、フォースインパクト事件は、単なる演出上の盛り上げではなく、最終作、あるいはエヴァ4部作全体を通してのマスターピースであると推測できる。
■最終作のドライバー予想
そうなってくると、やはり最終作の焦点は、「ゲンドウの狙いは何か?」ということになる。サードインパクトの前に、ゲンドウは「初号機覚醒を早めなければならない」と言っていたし、冬月も「やはりシンジとレイで初号機覚醒は成った」というような発言をしている。今作でも、フォースインパクト前にカヲルが「そういうことか」というようなことを言っているし、フォースインパクトがゲンドウらによって画策されていたのは確定的だ。
14年の時を経て、旧ネルフ職員達が反ネルフ組織として活動しているのもそれを阻止する為というのは合点がいく。
ゼーレの最終目的は「人類補完計画」かもしれないが、ゲンドウらは明らかに別の目的を持っている。それが他作同様に「死んだユイにもう一度逢うこと」なのか、「ユイの復活」なのか、「ユイのいる世界の創造」なのかは分からないが、最終作のメインドライバーは「ゲンドウの狙いとその阻止(E-G)」である可能性は高い。今まで、その布石は十分に置かれて来たはずだ。
アダムスとリリスは何なのか?
使徒とは何なのか?
エヴァとは何なのか?
エヴァの覚醒によって何が起こるのか?
2本の槍の使い道は何なのか?
ネブカドネザルの鍵はどう使われるのか?
前作破の中で、ゲンドウはシンジに「自分の願望はあらゆる犠牲を払い、自分の力で実現させるものだ。他人から与えられるものではない」と発言している。もちろん、これは一般論を言っているのではなく、その「願望」こそが、ゲンドウの狙いであり、ストーリーの核心であることを視聴者に伝えている。
この発言からは、その願望が「人類補完計画」というような人類規模の願望ではなく、個人的な願望であるということも感じられる。(もし、人類規模の願望であれば、「自分の願望」という言い方はしないだろう。)ゲンドウにとって重要な「ユイ」に関係することは確定的だが、どのような形でそれが実現されるかは不明である。
しかし、ごく単純なストーリー展開から言えば、それに必要な「あらゆる犠牲」はシンジや旧ネルフ職員達には到底受け入れられないものなののはずだ。そうでなければ、ストーリーにならない。例えば、前作でゲンドウが3号機に取り込まれたアスカを見捨てたことを思い出して欲しい。これがもっと大規模に起こるのだろう。
結果としておそらくゲンドウは死ぬことになるだろう。生き残ったエンディングが想像できないし、悪役は何らかの形で退場せねばならない。悲惨な死ではなく、ある程度願いを全うした上での死というのが可能性としては高い。
さて、最終作のストーリーを推定する上でもう一つ重要なことを指摘しておかなければならない。それは、ヱヴァンゲリオン新劇場版の主人公はあくまでシンジだということだ。序、破、Qのすべてがそうであるし、最終作も例外ではないだろう。Qの最後に腑抜けになっているシンジだが、最終作ではまた何らかのきっかけによって持ち直すはずだ。
ここで重要になってくるのが綾波レイの存在だ。Qの中で、冬月がシンジに「レイは初号機のコアに取り込まれた」と説明しているが、この説明にはストーリー上の疑問が残る。破で壮大に持ち上げたはずの綾波レイがこのままフェードアウトするとはとても思えない。Qに登場した、アヤナミレイ(仮称)が自我を持ち始めている点から言っても、それとリンクする形で復活する可能性がある。つまり、アヤナミレイ(仮称)に綾波レイの「魂」が同期する形での復活、あるいは、アヤナミレイ(仮称)の犠牲の上になりたつ、綾波レイとの再会である。シンジをやる気にさせるには、十分な要素だ。
これをゲンドウの狙いと組み合わせると、必然的に、ゲンドウの狙いとシンジの希望(=綾波を助けること)は排他的でなければならない。そして、そのキーとなるのが肉体を失った綾波レイの魂ということになる。
父と子、ユイとレイ、過去か未来か、これらの対称性は非常に良く出来ている。そしてセオリーとしては、子が、ヒロインが、未来が勝つ。
もちろん、それほど単純でなければ、最終的にはレイも失われ、納得の悲劇=シンジが大人になる的な展開で幕を閉じるのかもしれない。
その場合は、レイを救うこと=世界が滅びることになっている可能性もある。それならば、Qの時点で人類補完計画、あるいはゲンドウの狙いを知っているであろう葛城ミサトがシンジに冷たくあたる理由が説明できる。シンジがレイを救おうとすれば世界が滅んでしまうからだ。
細かいフラグはかなりの数が残っているが、メインドライバーは以上のようなものが濃厚だ。
細かいことを言い出すとキリが無いのでこの辺で止める。
ヱヴァ最終作はとても楽しみだ。期待している。