2013年4月21日日曜日

【ストーリー解析】「劇場版 STEINS;GATE 負荷領域のデジャヴ」


2013/4/20に公開された「劇場版 STEINS;GATE 負荷領域のデジャヴ」のストーリー解析を行う。

*完全なネタバレなので、まだ観てない人は観ましょう。



■スタッフ
原作 - 志倉千代丸/MAGES./Nitroplus
企画 - 安田猛
スーパーバイザー - でじたろう
総監督 - 佐藤卓哉、浜崎博嗣
監督 - 若林漢二
シナリオ監修 - 松原達也、林直孝
脚本 - 花田十輝
キャラクター原案 - huke
キャラクターデザイン・総作画監督 - 坂井久太
アニメーション制作会社 - WHITE FOX

脚本は花田十輝。アニメ脚本でよく見かける気がする。ただし、今回も劇場版なので誰がどの程度ストーリーを決定したかはよく分からない。


■声優
牧瀬紅莉栖 - 今井麻美
岡部倫太郎 - 宮野真守
椎名まゆり - 花澤香菜
阿万音鈴羽 - 田村ゆかり
橋田至 - 関智一

とにかくミンゴスの演技が素晴らしかった。主役として気合が入っていたと思う。


■演出
TV版(またはゲーム版?)の演出を踏襲しすぎていて、新鮮味に欠ける。随所にクリスのサービスシーンがあるのだが、それよりもr世界線のような、新しい要素、新しい演出が見たかった。服が同じなのもマイナス。
また、極端なアップが多く、劇場版=大スクリーンという特性をまったく解していない。作画も劇場版というほどのクオリティではなく若干の違和感がある。
ただ、クリス役の今井麻美や、まゆり役の花澤香菜の演技が良かったので、泣けるシーンは結構あった。


■総評
劇場版というには、演出面でもストーリー面でも穴が目立った作品だった。おそらく製作にあまり時間や予算がかけられなかったのではないだろうか。上映時間の制約もあるが、もう少しストーリーをまとめられるのではないかという印象。(最後の改善案参照)
ただ、続編が見られるというのはうれしい限り。


■ドライバー

本作のメインドライバーは2つ。

・リーディングシュタイナーの負荷による岡部の世界線移動を阻止すること。(E-G)
・クリスの岡部への想いについての葛藤(L-F-L)

これらは、『負荷領域のデジャブ』というタイトルを回収するものである。これらが本作のストーリーの根幹部分になる。ただし、L-F-Lの構造は結構分かりにくい作りになっている。

他にもサブドライバーとして、

・まゆりとオカリンの間の関係崩壊と修復(L-L-F-(L))
・まゆりのクリスへの愛情(L)
・ラボ解散の危機(E-G)

などがある。ただし、サブドライバーはどれも強度が高いわけではない。


■ストーリー詳細

覚えている範囲で、ストーリー詳細は次のようになっている。

P シュタインズゲート到達後、1年が経過した状態でスタート。

L クリス来日。まゆり、ルカ子らが出迎える。

F 岡部照れて出迎えに来ない。バーベキューの準備をしたり、プレゼントを買ったらしい。

E 岡部に異変(他の世界線の出来事のフラッシュバック)が起こり始める。

L バーベキューで酔っ払ったクリスが岡部に絡んでいちゃいちゃする。岡部はスプーンとフォークをプレゼント。

E 再び岡部に2度のフラッシュバックが起こる。

L まゆりがオカリンを心配する。オカリンはそれに応える。

E(L)クリスのホテルに謎の人物(鈴羽)が現れ、謎の助言を残す。

L 岡部のプレゼントに応えて、クリスは白衣をプレゼント。

E 岡部消失。クリスも岡部を忘却しかける。

G クリス、フォークの存在に気がつき、助言を思い出す。

G タイムリープマシンを完成させ、消失の1日前にタイムリープ。

P(L)タイムリープを確認した鈴羽と合流。さらに岡部とも合流し現状整理。r世界線についての説明も。

L クリスは岡部を失いたくないが、岡部は過去改変を行うことを頑なに拒否する。

F 岡部クリスに別れを告げる。

F クリス再び岡部の消失を目の当たりにし、激しく取り乱す。

L まゆりが苦しんでいるクリスを見てタイムリープマシンを作ろうとすることを引き止める。

F クリス岡部の思いを尊重し、過去改変をしないことを決断。

E ラボが徐々に解散へ向かう。

L 鈴羽がクリスを説得に現れる。

L クリスは最終的に説得に応じ、2005年へ。

F クリスをかばって岡部少年がトラックに跳ねられ計画は失敗。

P 過去改変の恐ろしさを味わったクリスは過去改変を断念。

F まゆりが言い表せぬ寂しさを訴えはじめ、ラボのメンバーも岡部のことを思い始める。

L クリス再び2005年へ。

G 岡部に強烈な思い出を残すために、悩める岡部少年にマッドサイエンティストの話などをして、さらにファーストキスを奪う。

L クリスが時空の狭間?にいる岡部と再会。

(おわり)

まとめるとマクロでは、

  E---E-GE-G  r世界線からの脱出要素
L---L-F-L---L クリスと岡部の恋愛要素
   L-L----F   まゆりとオカリンの信頼関係要素

といった3要素が互いに関係してストーリーを形成している。ストーリーの争点はまとめると次のように要約できるだろう。

①クリスが「岡部といっしょにいたい」という自分の気持ちと、競合する岡部の願い(=クリスとまゆりに危険が及ぶことはしてほしくない)のどちらを優先させるかという問題。
②岡部の願いを受け入れた先にある「まゆりとオカリンの関係の崩壊」が、実は後のストーリーを動かすということ。


■多くの疑問点

今作のストーリーはマクロで見るといい感じに見えるのだが、観ていたときは、妙に全体性が欠けているなという印象だった。後から振り返ってみると、色々な疑問点が出てくる。

①服・・・同じなの?
一年後ということをまったく感じさせない設定。謎。劇場版・・・だよな?

②SERNのハッキング簡単すぎないか?
いきなりブラックホールまで使えちゃうのはおかしい。TV版では、相手が全裸待機したからこそ可能だった。ただ、細かいので目を潰れなくはない。

③タイムリープマシン簡単に作れすぎじゃね?
そこまで詳細に思い出せるものなのか。

④鈴羽何しにきたの?
第三次世界大戦も起こってなかったようだし、そもそも過去に来る動機がほとんどない。

⑤ダルひどくね?
岡部の「ダルは頼りになる発言」は何だったのか。言っただけか。ラボも中途半端だしいいとこなし。

⑥ホテルに忍び込んだのはクリスかと
クリスが自分自身を助けるといったタイムパラドックス的な展開を期待してしまった。

⑦なぜ別れ際にチューしたし
選択と恋愛の葛藤を描きたかったんだろうけど、そこはもっと溜めるべきでしょ。

⑧なんで2005年?
クリスが2005年を選ぶ基準が希薄。

⑨r世界線にはオカリンいるの?いないの?
r世界線の設定が謎。過去に戻ったときにいたから、いるにはいるんだろうけど、途中で消えるってどういうことなの。世界線は過去改変で分岐するんじゃないの?あと、r世界線で未来から来た鈴羽はオカリンのこと良く知らないんじゃないの。

⑩過去改変簡単すぎないか?
さんざん過去を変えることの過酷さを説いておきながら、初キッスで万事OKとはこれいかに。


■ストーリー改善案

この作品のストーリーの問題点は、ドライバーが整理できていないことにある。クリスの葛藤も、岡部との恋愛も、まゆりとオカリンの関係性も強度が足りない。狙いを絞って以下のように改変すると良いと思う。

①岡部消失の前倒し
早く事件が起きて欲しいので、プレゼント終了後すぐにオカリンを消失させる。それに伴い、鈴羽の助言と気付きのタイムラグも無くす。つまり、消失→助言→思い出しかける(周りは否定する)→完全に思い出すの流れ。

②キスは最後までおあずけ
別れ際にキスはしない。未練を残す。この世界線のクリスは、そこまで思いいれも強くないのでその方が寧ろ自然。キスは過去改変でのキス一回に集約。

③ラボは解散
ラボはダルの決断で解散へ。

④鈴羽が来るのはまゆりが死んだから
クリスが過去改変を行わなかったr世界戦は、鳳凰院凶真が誕生せず、まゆりがおばあちゃんとさよならできなかった世界線。まゆりはその世界線上で、手を引かれるように短命で生涯を閉じる。それだけまゆりとオカリンの絆は重要なものであり、クリスは岡部ばかりを見ていて、そのことに気がつかなかったことを後悔する。なぜなら、それは岡部が最も大切にしていたものの1つだから。そこで未来のクリスは、同じくラボを解散したことを後悔していたダルと共にタイムマシンを開発する。そして、二人の無念を張らすべく鈴羽はやってくる。ただし、決断は現代のクリスに任せることが条件。

⑤クリスのミッションは鳳凰院凶真を復活させること
岡部をリーディングシュタイナーの負荷から救い、まゆりを助けるためには鳳凰院凶真を復活させる必要がある。そこでクリスは、まゆりとオカリンの関係を修復し、尚且つ岡部に強力な記憶を植え付けるために、岡部少年に鳳凰院凶真(=岡部)という人間の温かみ、思いやり、すごさを伝え、キスをする。それは、岡部少年を鳳凰院凶真にする儀式であり、クリスの岡部への愛の告白でもある。

以上を踏まえて、ストーリーを整理しなおすと次のようになる。

P シュタインズゲート到達後、1年が経過した状態でスタート。

L クリス来日。まゆり、ルカ子らが出迎える。

F 岡部照れて出迎えに来ない。バーベキューの準備をしたり、プレゼントを買ったらしい。

E 岡部に異変(他の世界線の出来事のフラッシュバック)が起こり始める。

L バーベキューで酔っ払ったクリスが岡部に絡んでいちゃいちゃする。岡部はスプーンとフォークをプレゼント。

E 岡部消失。クリスは岡部の消失をはっきりと観測できず、周りにも否定されたためホテルに帰る。(酔いも醒めてなかったかもしれないしとか思う)

E(L)クリスのホテルに謎の人物(鈴羽)が現れ、謎の助言を残す。クリスは不審に思うだけ。

G クリス、ラボで受け取り損ねたスプーンとフォークに気がつき、消失前の出来事を思い出す。

G 助言を思い出しタイムリープマシンを完成させ、消失の1日前にタイムリープ。

P(L)タイムリープを確認した鈴羽と合流。さらに岡部とも合流し現状整理。r世界線についての説明も。

L クリスは岡部を失いたくないが、岡部は過去改変を行うことを頑なに拒否する。

F クリスは岡部のまゆりへの想いを尊重し過去改変を行なわないことを決める。

F 岡部クリスに別れを告げる。

F クリス再び岡部の消失を目の当たりにし、激しく取り乱す。クリスに岡部との色々な記憶が見える。

L まゆりが苦しんでいるクリスをタイムリープマシンの開発を引き止める。

F クリスは岡部の思いを尊重し、過去改変をしないことを決断。

E ダルの決定によりラボが解散へ向かう。

E まゆりが言い表せぬ寂しさを訴えはじめる。ラボのメンバーも岡部のことを思い始める。

L 鈴羽がクリスを説得に現れる。ただし、理由は明かさない。

L クリスは最終的に説得に応じ、2005年へ。

F クリスをかばって岡部少年がトラックに跳ねられ計画は失敗。

P 過去改変の恐ろしさを味わったクリスは過去改変を断念。

L 鈴羽が過去に来た真相(=まゆりの死とダルとクリスの後悔)を話す。しかし、r世界線上の鈴羽は、何がまゆりを救うのかまでは分かっていない。

F まゆりが少しだけオカリンの記憶を語り始める。それは、墓に現れると思ったけど現れなかったオカリンの話。

L クリス、鳳凰院凶真を復活させる為に再び2005年へ。

G クリスは、鳳凰院凶真(岡部)への想いを岡部少年に伝え、やさしくキスをする。

L クリスが時空の狭間?にいる岡部と再会しハッピーエンド。

(おわり)

これで、ストーリーがだいぶ引き締まったと思う。クリスが抱く岡部への愛情には、純粋な岡部への愛情だけではなく、岡部のまゆりへの想いに対する尊敬(こんなにも人のことを大切に思えるものだろうか?)がある。それゆえ、クリスは岡部を助けたいと思うし、まゆりも大切な仲間だと感じている。これらを強化することにより、岡部とまゆり、岡部とクリスという2つの関係性を共存させた本来のシュタインズゲートらしいストーリーになるだろう。