2013年7月21日日曜日

【ストーリー解析】「風立ちぬ」

2013/7/20に公開されたアニメ映画「風立ちぬ」のストーリー解析を行う。

*完全なネタバレなので、まだ観てない人はぜひ観ましょう。



■スタッフ
監督・脚本・原作 - 宮崎駿
作画監督 - 高坂希太郎
美術監督 - 武重洋二
音楽 - 久石譲
制作 - 星野康二 スタジオジブリ
配給 - 東宝
原作掲載 - 月刊モデルグラフィックス

監督はもちろん宮崎駿。2008年の「崖の上のポニョ」以来で、上映時間は126分。実在の航空技術者堀越二郎や、堀辰雄の小説『風立ちぬ』をベースとしつつも、映画作品としての本作のストーリーは大部分が宮崎駿の手によるものである。

■声優
堀越二郎 - 庵野秀明
里見菜穂子(さとみ なおこ) - 瀧本美織
本庄 - 西島秀俊
黒川 - 西村雅彦
黒川夫人 - 大竹しのぶ
カストルプ - スティーブン・アルパート
カプローニ - 野村萬斎

声優で特筆すべきはもちろん庵野秀明。個人的にはかなりマッチしていたのではないかと思う。イケメン声でないところに好感が持てる。また、ヒロイン役の瀧本美織には惚れざるをえない。黒川役の西村雅彦もいい味を出していた。

■映像・音響
SEが良い感じだった。なんと人の声で表現するという試みのようだ。SEに存在感があり、航空機の臨場感を高めている。
一方で、映像については、アリエッティやコクリコ坂と同じで、ぼてっとしてしまらない感じ。少なくとも、映像美で魅せる作品ではない。ただカットやコンテの美しさはさすがといったところ。

■総評
およそ宮崎駿にしか描けないであろう現代アニメ映画の特異点である。着眼点が現代の日常とは大きく異なっており、その特異性だけで名作として数えられることは間違いない。全体を貫くのは忠実さや健気さ、悲哀といった美意識であり、それによって何か良くわからない心の内を掴まれた気分になる。
しかしながらストーリー展開は王道かつテクニカルで心地よい。

この映画は観客を特定のイデオロギーに扇動することも、娯楽に酔わせることも無い。ただ実直にストーリーは進行し、アニメを観ようとする(あるいは娯楽を求めようとする)者に対して、実直に生きることを薦めているのではないかとさえ思える。この作品は、生きることそのものではなく、「われわれが」生きることそのものであるということを証明したのかもしれない。


■ドライバー

本作のメインドライバーは次の2つ。

①二郎と菜穂子の愛と別れ(L-L-F-L-F-(L))
②二郎の美しい航空機を作りたいという夢の実現(L-F-F-L)

また、サブドライバーに

③関東大震災で菜穂子とキヌを助ける。(E-G)
④カプローニ氏との夢での出会い(P)
⑤本庄との友情(L-L)
⑥ドイツ訪問(P)
⑦カストルプとの出会い(P)

などがある。本作のストーリーの根幹は、①と②およびその接合方法にある。

まず、もっとも観客の目を引きつけるのは、①の「二郎と菜穂子の愛と別れ」である。これは、分かりやすい悲劇であり、結核という病魔との闘いの中で菜穂子の健気さが何倍にも強調される展開となっている。
また、②の「失敗を繰り返しながら成功へ向かう航空機設計技師としてのストーリー」も極めて分かりやすい。

だが、本作がすごいのはそれだけではない。本作ではそれらのストーリーを単に並行させるだけではなく、2つの間に明確な優越をつける工夫がなされている。それは②のストーリーのクライマックスにあたる飛行テストのシーンで成されている。

このシーンは、単純に考えれば、二郎が成功を喜んで終り、あるいは駆けつけた菜穂子も一緒に喜んで終りという終わり方も十分に可能である。というよりそれが普通である。しかし、実際には、二郎は喜ぶことなく、菜穂子との別れを超越的に悟るという演出がなされている。これは、二郎にとって「航空機の成功」は、「菜穂子への愛」には遠く及ばないということを示している。これによりドライバーの優劣は完全に決着し、最大のドライバーは①であることが分かる。そして、それがラストシーンへとつながっていく。
ラストシーンでの、菜穂子の「生きて」というメッセージと二郎の「ありがとう」というメッセージは極めてポジティブであり、これによって本作はハッピーエンドという最高の状態で終わる。
本来ハッピーエンドであるはずの夢の実現を空振りさせ、尚且つ、本来バッドエンドである恋人との別れをハッピーエンドで終わらせるというのは何とも見事なストーリー展開である。

唯一残念なのはPドライバーが多くて中盤のストーリー強度が低いことぐらいか。


■ストーリー詳細

覚えている限りのおおよそのストーリーは次のようなもの。大分省略している。

P 堀越二郎少年は航空機の夢を見る。

L 二郎は夢の中で、航空機設計技師のカプローニ氏と出会い、飛行機の設計士になることを決意する。

P 成長した二郎は、設計技師になるための技術を学ぶ為に機関車で上京する。

L 二郎は車中で、菜穂子と付き添いのキヌと出会う。

E 関東大震災により、機関車は急停車し、乗客は機関車から逃げ出していく。

G 二郎も機関車を後にしようとするが、菜穂子とキヌが立往生しているのが目に入る。

G 二郎は、骨折しているキヌをおぶって菜穂子と避難する。(添え木として計算尺を使う。)

G 二郎は2人を無事に家族に引き渡した後、名を告げずその場を去る。

P しばらくして、二郎は友人の本庄と共に設計技師学校で生活を送る。

LF 菜穂子から二郎宛に計算尺とお礼の手紙が届くが、再会は果たせない。

P その後、二郎と本庄は名古屋の航空機メーカーに就職する。上司の黒川、服部らと出会う。

LF 入社してはじめて関わった航空機のテスト飛行が行われたが、航空機は墜落する。

P 二郎と本庄を含むメーカーの社員らは、技術契約を結んだドイツの航空機メーカーを訪れ、その技術力の高さを目の当たりにする。

L 出張後、二郎が新しい航空機の設計チーフに抜擢される。

F 初設計の機体はテスト飛行でまたも空中分解、墜落してしまう。

P 二郎は休暇でホテルを訪れる。

L そこで二郎は菜穂子と再会する。

P 二郎はカストルプと出会う。

LE 二郎は菜穂子に交際を申し込むが、菜穂子は結核を患っていることが明かされる。

LF 二郎はすぐさま菜穂子に結婚を申し込むが、菜穂子は結核が治ることを結婚の条件にする。

L 会社に戻った二郎は新しい小型飛行機の設計を任される。

F 製作は順調に進んでいたが、菜穂子が吐血したとの電報が届く。

L 二郎は急いで東京の菜穂子の家に向かい再会する。

G 菜穂子は結核を治すため高原病院に入ることを決意する。

L 航空機の製作は順調に進む。

LE 菜穂子は気持ちに耐えられなくなり、病院を抜けて二郎の元へやってくる。

L たとえ病気が重くとも一緒にいるべきだと決意した二郎と菜穂子は黒川の家で祝言を挙げる。

L 二郎と菜穂子はひと時の幸せを掴む。

L 航空機が完成し、二郎は飛行場へ向かう。

F 菜穂子は二郎を見送った後、自身の病状を悟り、置手紙を置いて高原病院へ戻る。

L 二郎の設計した航空機は高い飛行性能を示し、飛行テストは大成功となる。

F しかし、飛行テストとは裏腹に、二郎は菜穂子との別れを直感的に悟る。

P それからしばらく経ち、夢の中で二郎はカプローニ氏に再会する。

L その夢の中に菜穂子が現れ、二郎に「生きて」とメッセージを送る。二郎は「ありがとう」と返事をする。

(おわり)


■いくつかの問題点

①本庄の役割は?
本庄は出張る割にストーリー上の役割が無い。

②ドイツ訪問がただの説明になっている
ドイツ訪問はストーリー上の役割が無くただのPドライバー。

③カプローニさん出すぎです。
はじめと真ん中、終りの3回で十分?

④カストルプとはいったい
スパイだったのか何だったのか。また二郎が秘密警察に追われる理由も特になしってどうなの。

■改善案

Pドライバーは少し減らしても良いでしょう。