今回は一般の文章構成方法について考える。ここでいう一般とは、文芸作品以外の文章を指す。
一言で言えば、「情緒」ではなく「情報」を伝えるための文章ということだ。
まずは、一般の文章の構造を分析し、それを踏まえて構成法を述べる。
■文章における3つの階層構造
まず、文章には次の3つの階層が存在する。小さいものから順に説明する。
1.ミクロ構造(トゥールミンロジック)
「情報」を伝えるための文章の基本は論理である。それにはトゥールミンロジックという枠組みがあり、その構成要素は次のようなものだ。
・データ(D)
・根拠(W)
・主張(C)
・裏打ち(B)
・定量的判断(Q)
・例外(R)
これらの6つが、文章の一番小さい構成要素である。
2.セミマクロ構造
次に、トゥールミンロジックを1つのまとまりとして、それらを含む、節のような短い文章を考える。
まず、先ほどのトゥールミンロジックの構成要素は、大雑把に主張とそれ以外に分けることができる。「○○である」という部分と「なぜならば」に該当する部分である。これらを改めて、
・結論(C)=○○である。
・詳細(D)=なぜならば
としよう。
さらに、セミマクロ構造には、これらに加えて
・宣言(P)
・進んだ結論(AC)
が導入される。節のような短い文章の構成はこれらの組み合わせで成り立ち、代表的には次の3つの形式がある。
①C-D-AC
②P-D-C
③P-D
セミマクロの構造では、必ず文章のはじめに、結論または宣言が行われる。これは、論理とは関係なく、それを読む価値があることを相手に伝達するものである。
①C-D-AC
この場合は、はじめの結論がその伝達にあたる。まず、結論を述べることにより、相手になぜだろうと思わせて、その詳細を述べる。そして、その詳細を述べたことによるアドバンテージを得て、より進んだ結論が最後に来る。ACは必ずしもCの言い換えではなく、Cとは異なるより進んだ結論が述べられる。
②P-D-C
この場合は、はじめの宣言が価値の伝達にあたる。今から「○○について考える」や、「○○を明らかにする」、「○○とは何だろうか?」という宣言を行うことで、読者に結論を明らかにすことなく、その価値が伝達できる。その宣言後、詳細Dが開始され、最後に期待されている結論Cが述べられる。この宣言は、節のタイトルを使って行うこともできる。
③P-D
この場合は、はじめの宣言による価値の伝達は同じだが、結論がない。これは単に結論が無いのではなく、結論が不要な場合に用いられる。例えば、「○○のやり方」とその手順、「○○の分類」とその区分などがそれにあたる。これらは、その詳細自体が伝達したいことであり、それを説明すれば目的は達せられる。
3.マクロ構造(ソート&オーダー)
最後に、セミマクロ構造をさらにひとまとまりと捉えたものが文章全体のマクロ構造ということになる。マクロ構造には、大きく分けて量的なものと質的なものが存在する。
まず、量的には、文章の前後に
・プロローグ(P)
・エピローグ(EP)
が導入される。前のプロローグは、セミマクロ構造でのCまたはPと基本的に同じで、その文章を読む価値を読者に伝えるものである。これは、文章中であきらかにする重要な結論Cである場合もあれば、何を明らかにするかの宣言Pでもありうる。どちらにせよ、それを最後まで読むことのメリットが読者には伝えられる。「要約」という形をとることもある。
後ろのエピローグは、プロローグに比べると曖昧で、1つ1つの結論を踏まえてのさらに進んだ結論AACが述べられる場合もあれば、単に終わりの挨拶である場合もある。また、プロローグはあるがエピローグは無いということもよくある。エピローグにはあまり明確な機能は無い。
次に、質的な構造は、文章の順序に表れる。
1つ1つのセミマクロ構造は内容的に独立しているわけではなく、基本的には前後の依存関係(すなわち順序)が存在する。つまり、セミマクロ構造を適当に並べても大規模な文章を構成することはできない。前後の依存関係を満たした上で、内容が近いもの同士がまとめられることによって、はじめてマクロ構造は決定される。これが章を構成することになる。
単純に言えば、質的な構造は、1つ1つのセミマクロ構造のソートによって生まれる。このソート順には、前提順や、時系列順、ストーリー順、抽象度順などがあるが、もっとも頻繁に現れるのは、前提順である。前提順は、ものごとの前提となっている順のことで、基礎→応用や、方法→実践(結果)、のような順序のことを言う。
マクロ構造は、セミマクロ構造のように新しい文章が追加されるというよりは、「どのような順序か?」ということが構造を決定付けている。なので、マクロ構造の本質は「どのような順序か?」ということによって代表される。
■文章構成の根幹
文章を構成する際に、最も重要なものはマクロ構造である。つまり、C-D-ACや、P-D-C、P-Dといったセミマクロ構造の文章のソート順は何か?ということである。
セミマクロ構造には、それ自体を単体でまとめる場合、いくらかの自由度が存在する。しかし、それらが連なる場合は、その前後のつなぎ方には一定の制約が出てくる。なぜならば、C-D-AC、P-D-C、P-Dなどのセミマクロ構造のDの前後、C、AC、Pは他のセミマクロ構造との接続部分になっているからである。
これは、大規模な文章を構成する際に、1つ1つのセミマクロ構造をオブジェクト化して考えることはできないということを意味している。つまり、大規模な文章を構成する際に必要なのは、要素のオブジェクト化ではなく、接続部分を決定付けるマクロ構造のオーダーを決定することである。
大規模な文章を構築することは、大規模なゲシュタルトを構築することに等しく、全体が決まらなければ部分が決まることは無い。
そこで大規模な文章の構成順は基本的に次のようになる。
Dの決定(内容の決定)
↓
マクロ構造の決定(ソート&オーダーの決定)
↓
セミマクロ構造の決定(接続部分の決定)