2011年8月28日日曜日

【酷・浦島太郎】あらすじ

ちょっと酷な浦島太郎のあらすじ。
新創作理論の実践の一環として製作。

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『酷・浦島太郎』

あるところに漁師の浦島太郎という男がいた。
ある日浦島が浜辺を歩いていると、村の若い衆が亀をいじめている。
亀は万年といい、たいそう長く生きるという。浦島はかわいそうに思い声をかけた。

「これ、亀をいじめてはいかん。亀とて同じ生き物ぞ」

これに腹を立てた若い衆は、持っていた棍で浦島をめった打ちにした。浦島はただ身を守るしかなかった。

若い衆はひとしきり暴れると、おとなしくなって去っていった。浦島はそろそろと起き上がり、亀は無事かと近くにいた亀を見やったが、すでに甲羅が砕けて死んでいた。

「可愛そうに。わしがやつらを怒らせねば、亀とて死なずに済んだやもしれぬ。すまんことをした」

浦島は亀を浜辺の松の根元に埋めてやった。

その夜、打たれた傷が痛んで寝付けない浦島の家の戸をたたく者がいる。半身を起こし「たれか」と聞くと「竜宮の使いなり」という。

妙なことだと思いつつ戸を開くと、そこに桃色の衣をまとった大層うるわしい娘が立っている。

「たいそう身分の高いお方とお見受けするが、夜分何の用か」

「わたしは竜宮の使いでございます。亀に墓を作っていただいた浦島という方を探しております」

「はあ、それは確かにわしのようじゃが」

浦島は戸惑ったが、娘は傷の具合を診たいという。娘は床に上がり、浦島の手当てをした。娘の持ってきた包帯は絹のようにやわらかく、塗り薬も塗ると痛みが和らいだ。そして、娘は浦島が眠りにつくまで、体を温めてくれた。

次の日、浦島が目を覚ますと娘はいなくなっていた。浦島は夢かと思い辺りを見回したがどうも様子がおかしい。そこは昨日までの家ではなく、見たこともないような上等な座敷であった。

おそるおそる戸を開けるとそこには巨大な水の庭があった。きらびやかに、四季の花が咲き誇っており、その中を鮮やかな魚が群れをなして泳いでいる。見上げると水はどこまでも続いているようだったが、昼間の庭園のように明るかった。そこに丁度、昨日の娘が粥を持って廊下を歩いてくる。

「まだ寝ておいでなければ、お体に障ります。粥をお持ちしましたのでお食べ下さい」

粥をよそいながら娘が言うには、高熱の上、中々目を覚まさぬゆえ、手当てのために竜宮城に連れてきたという。娘は、傷が治るまでしばらく城で養生して欲しいという。

それから、幾日か過ぎ浦島の傷はほとんど治ってしまった。浦島は大変感謝し、ある晩娘にいつまでも居候するのは申し訳ないのでそろそろ帰ろうかと思うと告げた。娘は少し戸惑った表情をしたが、「乙姫様に相談してみます」と言って了承した。

次の日、身支度を整えた浦島は乙姫に呼び出され初めて謁見することになった。
浦島が現れると、乙姫は真面目な面持ちで迎えた。

「そちが浦島か。傷はもう治ったか」

「はい、おかげさまですっかり治りました。このような豪華な宮で過ごしたのは初めてでございます、夢見ごこちというのはこのことで」

「ふむ、のん気なことじゃ。おい、あれらをここに」

乙姫が合図をすると、かしこまった屈強な家来どもが、なにやら物々しい様子で鎖に繋がれた3人の男を連れてきた。浦島はあっけにとられていたが、その男達の顔を見るや青ざめていった。

「浦島、この男どもを知っておるな?」

「はい……、知っております」

男達はやせこけ、足も立たず目に力も無かったが、その顔には覚えがあった。先日の村の若い衆だ。数日は何も食べていないようだった。

「わらわは人間が憎い。人間は丘に住むくせに、丘の上だけでは飽き足らず、海に住む生き物も殺し平気な面でのうのうと生きておる。

もちろん、わらわも道理が分からぬわけではない。人が生けるものを食わずして生きられぬのは分かる。しかし、このたび殺された亀はそうではない。この者達は単なる酔狂で、何の罪もない亀をむごたらしく殺したのじゃ」

乙姫は軽蔑に満ちた表情で若い衆に視線を投げかけた。その眼差しからは静かなる怒りがこみ上げているのが分かる。

「わらわは人が憎いが、戦をしたいわけではない。このような件にわらわが手を下していけば、丘の人間達も黙っておくまい。浦島、そちは亀の墓を作ってくれた。魚を取る漁師とはいえ、わらわはそちを責めるつもりはない。分かるな?」

新たに乙姫の家来が1人、浦島の元に近づいてくると、おもむろに浦島の前に布の包みを差し出した。
浦島は急に息苦しくなり、体の熱がどんどん奪われていくのが分かった。
包みが開かれると、その中には棍が入っていた。

「浦島、この件は人の間でケリをつけて欲しいのじゃ。そちの手でこの者たちを殺して欲しい」

浦島は、何か言おうと身震いさせたが声が出なかった。

「そちはこやつらに恨みが無いわけでもあるまい。傷の手当てが悪ければ死んでいたやもしれぬぞ」

家来達はそろそろと、頭を下げた浦島を取り囲むと刀に手をかける。

「分かってくれ浦島。これは仕方のないことじゃ。そちは悪くない。そちがやらぬなら、わらわはそちも殺さねばならぬ。わらわはそちを殺しとうないが、竜宮に人間を置いておけぬのは分かるな?」

浦島は頭が真っ白になった。結局浦島は、悩んだ挙句その晩衰弱した3人を殺した。

浦島が次に聞いた言葉は

「大義であった」

という乙姫のねぎらいの言葉だった。

その日、今まで見たこともない豪勢な食事が振舞われたが、ひとさじものどを通らず、夜は夢とも現とも分からぬ悪夢にうなされた。音が聞こえるのだ。暗闇の中で棍が頭を打つ音が。

次の日、乙姫は亀に浦島を送っていくよう命じた。浦島は言われるがまま、亀の背に乗り竜宮城を後にした。浦島は、まだ遠い故郷をおぼろげに思い出し涙を浮かべた。

「村のものに正直に話すべきだろうか」「話を分かってくれるだろうか」

疑問は次から次へと沸いては消えるが、それを考える力は無く、浦島は亀の背にうなだれ海底の藻屑を眺めていた。

浦島のいない間、村は騒ぎになっていた。ちょうど浦島の家に村人が集まっており、浦島は懐かしい顔ぶれに感激し涙を浮かべながら近づいた。しかし、村人が訝しそうにこちらを見た。

「あんた見かけない顔だけど、浦島の知り合いかい?」

浦島は、驚いて自分が浦島だと何度も説明したが村人はますます疑念を深めていくようだった。浦島は不思議に思いそばにあった溜桶で顔を映してみると、そこには昨日とは似ても似つかぬ、白髪でやつれたとても若者には見えない男が映っていた。

浦島は小さく悲鳴をあげ、慌ててその場を走り去った。
村人たちは、気がふれている老人がいると噂した。それを浦島と分かるものは1人もいなかった。

その日の夜、村人が寝静まった頃、一隻の船が沖へ出て行った。
それ以来、あの老人が浦島だったのではないかと噂になったが、次第にそれも忘れられ、
その後浦島の姿を見たり、その噂をするものはいなくなった。


おわり