2011年12月4日日曜日

【ストーリー解析】映画「けいおん!」

2011/12/3に公開された映画「けいおん!」のストーリー解析をする。


*完全にネタバレなので、まだ見ていない人は見ましょう。


■基本情報

原作 - かきふらい
監督 - 山田尚子
脚本 - 吉田玲子
アニメーション制作 - 京都アニメーション

脚本はアニメ「けいおん!」および「けいおん!!」で十数話を手がけた吉田玲子。ただし、アニメ映画という性質上、独断でストーリーをつけられるとは思えないため、大まかな内容については話し合いで決められたと推測される。

■あらすじ

あらすじを簡単に言うと、卒業旅行でロンドンに行きつつ、最後はあずにゃんに曲(天使にふれたよ)をプレゼントするという内容。公式のあらすじで公開されていないのは、映画が『天使にふれたよ』にまつわるエピソードであるという点であり、これがいわゆるネタバレにあたる。

ドライバー

メインドライバー(主要ストーリーの根幹)は先ほど触れたように

1.卒業旅行でロンドンに行く(L)
2.あずにゃんに曲を贈る(L)

の2つ。TV版との関係で言うと、最終回「卒業式!」であずにゃんに贈られた劇中歌「天使にふれたよ」の裏話になっている。
(ちなみに時系列としては、唯たちの合格発表と卒業式の間の話である。TV版で放映された#22「受験!」#23「放課後!」の間にあたる。)

劇中では3つのライブシーンがあるが、すべてメインドライバーと独立して描かれている。ライブシーンは映画としての強度を高めるために加えられていると考えられるが、ストーリーとはほぼ関係がなく挿入間はいなめない。そこで、ライブシーンはサブドライバーとして扱うことにする。

サブドライバーも含めるとストーリー構造は次のようになる。

L 先輩らしく、後輩(梓)に何かしようと計画する。(曲を贈ることに)

L それとは別に卒業旅行も計画する。

L ロンドンに行く。

P ★ロンドンのすし屋で別のバンドと勘違いされライブをやる。
  (=すしを食べたかったけど、食べ損ねた。でも憂の準備していた即席麺とかで満足(L-EーGーF(E)-G))

F ビッグな曲を構想するが、中々思いつかない。

P ★日本の文化フェスティバルに参加することになり、ライブをやる。

L 「曲はいつもの感じでいいんだ」ということに気がつく。

P ロンドンから帰国。

L ★最終登校日ライブを計画。

L ★最終登校日ライブをする。

L 紬が曲を完成させ、みんなで歌詞を考える。(ライブの前だったかな?)

L 卒業式に梓に曲をプレゼントする。

★はメインドライバーに関係のないサブドライバー。

マクロに見ると
 Lーーー-ーP      =ロンドン旅行
L-ーーFーー-ーーL  =曲を贈る
   PーーPーーL    =3回のライブ
という構成。

見ての通り、テクニカルなストーリー構造がほとんど無い。ほとんど、「~を計画」、「~をやった」で構成されている。
このストーリー構造のなさ具合は、後述する演出と関係があると考えられる。

■演出

この映画のコンセプトはおそらく、「放課後ティータイムといっしょにロンドン旅行しているような感覚になってもらう」ということと、「『天使にふれたよ』のエピソードを、唯たち送る側の視点で描く」の2つだろう。(これらはメインドライバーに対応している。ちなみにTV版では曲を贈られるあずにゃん側の視点が描かれた。)

1つ目については具体的に、旅行の申し込み、準備、行きの飛行機、空港、ホテルのチェックイン、帰りの飛行機など旅行に関係する全ての行程が省略されずに描かれている点、イギリス人の英語に字幕がついていない点などが挙げられる。これらはロンドン旅行を唯たちといっしょに「擬似体験」するための演出である。

2つ目については、秘密で準備するのにどきどきしている紬のメール、ホテルで夜に4人で集まって相談する描写、演奏する前に唯たち4人が緊張している様子など、TV版では描かれていなかった唯たち側の「気持ち」が描かれている。

■総評

ストーリーはこの映画の主要テーマではない。視聴者を魅了するのは、ストーリーではなく、放課後ティータイムと行くロンドン旅行の「疑似体験」である。旅はどこに行くかではなく、誰と行くかが重要だと言われるが、この映画も同じである。魅力的なのは、ロンドンでも、旅先のライブでも、歌を贈るというストーリーでもない。そのひとつひとつのなんでもない場面で見せる登場人物の反応や仕草こそが、この映画の最大の魅力なのである。そのためストーリーに関係のない演出が非常に多い。

視聴者の多くはすでにTV版を通して登場人物のノリを熟知している。
映画「けいおん!」はバーチャルな世界に構築されたユートピア的人間関係の結晶であり、訓練された視聴者はそれを享受しているかのように体験することが出来る。

今回の劇場版は、唯たち放課後ティータイムと「もっといっしょにいたい」という視聴者に答えた「アンコール」という言葉がふさわしい。


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以下、ストーリー構造上の改善策。


■いくつかの疑問

ストーリー上、不自然なエピソードがいくつかある。特に、ライブはすべて挿入的であり、メインドライバーと関連性が薄い。そのため、これらをメインドライバーに組み込めばストーリー構造を強化することが可能である。ただし、今作の演出上、ストーリーは強くなくてもよいのかもしれない。

①アフタヌーンティー(L-F)
なぜか、アフタヌーンティーは「予約が必要」という良く分からない理由で失敗する。ギャグや悲劇で無い限り、普通はL-F-Lとなり、アフタヌーンティーと呼べそうなエピソードにつながって望みが叶うのだが、そういったシーンが無い。旅行だとそういう残念なこともありがちだよねということなんだろう。

②飛び入りライブ(P)
「たまたまいたからやって欲しい」というよく分からない理由で参加。ロンドンでの大きなエピソードにも関わらず、メインドライバーとの関連性が極めて薄い。

③さわ子登場(P)
なぜか、飛び入りライブの直前にさわ子が登場する。登場したはいいが、何もしない。出てきただけである。

④最終登校日ライブ(L)
クラスメイトの「ライブやってよー」との発案でやることに。その計画を潰そうとする謎の男性教員が登場するが、最後はよく分からない理由で折れる。詳細に見れば、「最終登校日ライブを計画する(L)も、ある男性教員に妨害されそうになる(E)。それをさわ子先生が影ながら助ける(G)。そしてライブは大成功(L)。(L-E-G-L)」と読める。しかし、そもそもそんな悶着はいらない気がする。

⑤梓からの返答(L-L)
普通のストーリー構成であれば、曲を披露した後に、梓からの返答(L)が入る。しかし、映画版では、すでに描かれたTV版を踏まえて返答に関するエピソードは簡素なものになっている。これは、TV版で描かれたのが「先輩が卒業してしまうという悲しさ(E)」に対して、「卒業は終わりじゃない、これからも仲間だよ」という歌のメッセージによる解決(G(L))であったため、「梓の悲しみが描かれない以上、返答は描くことが出来ない」から。また、TV版と同じシーンになってしまうからだと思われる。

■構造強化の一例

①アフタヌーンティー
L-F-Lとなるよう、お茶するシーンをどっかに入れる。たまたまもらう、フェスティバルライブ前に差し入れされるなどがありえる。

②③飛び入りライブ&さわ子登場
フェスティバルライブに飛び入りする段取りをさわ子にやってもらう。そうすればさわ子も自然に参加できるし、ライブ決定のインパクトが強くなる。また、「顧問」としてのさわ子の重要性も強調できる。

④⑤最終登校日ライブ&梓からの返答
誰得な男性教員かぎつけエピソードはカット。最終登校日ライブで、嬉しそうな梓、ちょっと悲しそうな梓のシーンを入れれば、楽しかった卒業旅行との対比で、梓の寂しさが描ける。それによって、王道的なE-G(L)となり、以降のエピソードが映える。また、これによってTV版の見え方も少し変わるはずだ。

これらを踏まえると次のようになる。


L 先輩らしく、後輩(梓)に何かしようと計画する。(曲を贈ることに)

L それとは別に卒業旅行も計画する。

P さわ子が卒業旅行の話を知る。(伏線)

L ロンドンに行く。

P ★ロンドンのすし屋で別のバンドと勘違いされライブをやる。
  (=すしを食べたかったけど、食べ損ねた。でも憂の準備していた即席麺とかで満足(L-EーGーF(E)-G))

E ビッグな曲を構想するが、中々思いつかない。

P 突然現れたさわ子の手引きにより、日本の文化フェスティバルに参加する。

G さわ子の助言やライブの感触により、「曲はいつもの感じでいいんだ」ということに気がつく。

P ロンドンから帰国。

L 最終登校日ライブをする。

E 梓が卒業する先輩との別れを感じ始める。

L 紬が曲を完成させ、みんなで歌詞を考える。

L(G) 卒業式に梓に曲をプレゼントする。

L 梓喜ぶ。

これでライブがストーリー構造に関連付けられ、ストーリーの強度が増した。